不器用男の恋
その様子は、たちまち学校中のニュースになってしまい、親にも知れ渡ってしまった。
橋本太郎の両親は手を取り合って喜んだが、藤本実花の両親は、怒りがこらえきれなくなり、二人を夜の公園へ呼び出してしまった。
「実花はこんなやつだとは思わなかったよ。何でこんな成績の悪い奴なんかと付き合ってん だよ。もっとましな奴はいなかったのか」
「お父さん、成績20位以内って十分普通にすごいよ」
「ダメと言ったらだめだ。成績はトップ3のみ。何でこんな帰宅部で顔も性格も全て悪いやつ なんだよ」
「せ、性格は悪くないわよ」
ここで、実花の母が口を開く。
「実花もこんな感じになってしまうのよ。わかっているの」
「お父さんもお母さんも大嫌い」
「何口答えしてんだよ」
ここで、橋本太郎がようやく発言する。
「人を好きになることって、人間の心を豊かにすることですよね。
好きになる人間の範囲が限られると、心の幅も狭まりますよね。
恋愛ってするものではないんじゃないですか。自然となるものですよね。
その恋愛を、他人が勝手に縛ることは絶対してはいけない行為ですよ」
「うるせーーーーーーー」
父親が橋本太郎を殴る。
「うちの娘はやらんぞ」
「どんなことでもします。あと少しだけでいいので、娘さんと交際させていただけませんで しょうか」
「どんなことでもするんだな。だったら、今すぐに別れろ」
「えっ」
「そして、実花は、お前と同じ高校には行かせん。遠くの名門校に行かせる。
実花、明後日引っ越しだ」
そして、引っ越し当日。
軽トラックに乗った藤本実花と母親。後ろの荷台には、大量の荷物。
いよいよ、走り出した。
すると、何かが追いかけてくる。
「実花さーーーーーーーん」
そう叫びながら後ろを走っているのは、橋本太郎。
しかし、帰宅部故に体力がなく、すぐに力尽きてしまう。
最終手段として、用意していた。自分の思いと、実花のはもらっていたが、自分のは渡していなかったLINEのコードを書いた紙を、紙飛行機にして、一か八か、走っている軽トラックに向かって投げた。
が、風によって、見当違いの方向に飛ぶ。
も、偶然飛んでいた鳥が紙飛行機をキャッチし、軽トラックの実花側の窓に落とす。
実花がそれをキャッチ。
嬉しそうにその髪を読む藤本実花。
その隣で運転する母親が笑いながら実花に尋ねた。
「なんて書いてあったの?」
「えーやだよ。2人だけの秘密」
楽しそうな二人を乗せた軽トラックははるか彼方へ消えて行った。
橋本太郎は、離れていく軽トラックにずっと手を振っていた。
見えなくなっても、ずっと。