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不器用男の恋

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とある場所に、一人の中学生が居た。男の名前は、橋本太郎。彼は中学3年生。彼女いない歴は、年齢だ。彼は視力が悪く、黒縁の眼鏡をかけている。内気で、あまり他人に積極的に話しかけられないが、よく笑っている。俗にいう冴えない青年である。
 
 彼は、帰宅部。休日は常にパソコンと向き合っているか、ゲームをしている。家から一歩も出ない。箱入り息子だ。しかし、勉強面では真面目であり、成績は20位以内には常に入っている。最近のお気に入りのゲームは、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」らしい。
 
 家と学校が遠いので、毎日電車で行き来している。
 
 ある日、彼は学校へ行った。クラス替えの日だった。昨年度の仲のいいクラスとは、かけ離れた、知らない人の集まりの中に入れられた。これからやっていけるだろうか。橋本はそんな不安に襲われていた。
 
 席に着いた。隣に座っている女子に彼は一目惚れしてしまった。

 橋本太郎と同じ中学校に通う、藤本実花。彼女は、学年一のモテ女。とても美人。ショートカットでスタイルもいい。成績優秀で、部活動では、県内一位を常に取る。彼女の一番の魅力は何と言っても、持ち前の無邪気な笑顔だろう。そこに惹かれる男子は、佃煮にするほどたくさんいる。

 彼もそのうちの一人だった。彼女は、噂では、過去2度の交際経験があるらしい。どちらも1か月と少ししか関係は続かなかったらしいが。しかも、その過去の彼氏は、成績で言うと学年2・3位の人だった。自分には無理だろう。橋本は自分にそう言い聞かせた。

 内気な彼は、藤本と一言も話せないまま、下校した。そして、驚いた。なんと、電車の隣に、藤本が座っていたのだ。
 橋本は、驚きを隠せず、ドギマギしながら、片言の日本語を並べながら実花に尋ねた。

「どうしているの?部活、行かないの?」

 緊張のあまり、言葉に抑揚がない。すると、彼女はこう返答したのだった。

「いや、足、痛めちゃって、病院に行くんだ」
 
 その後、彼女はにっこりほほ笑んだ。自分だけに向けられた笑顔にときめきを隠せない太郎だった。
 その日は、そのまま別れた。内気な彼にとってはこのわずかな会話だけでも大満足だった。

 家に帰るなり、部屋に向かった。いつもの日課である、勉強をするために。
 勉強が終わるとすぐに、ファミコンを取り出す。実は彼はレトロゲームマニアなのだ。
 
 先程の興奮から、彼のテンションは最高潮になり、普段は30機くらいしかできない無限ワンナップが今日は倍の60機出来た。

 次の日も次の日も、彼は藤本実花をひたすら観察し続けた。しかし彼は変態ではないので、付け回すような行為はせず、読書中にちら見するだけだった。観察していて、あの笑顔を見ていて、幸せそうに思うかもしれないが、彼は嫉妬している。

 藤本実花と楽しそうに話す、彼女の男友達達にだ。彼は内気な為、映画「卒業」のダスティンホフマンのように、連れ去ることも出来ず、話しかけることも出来なかった。
 普段はただニコニコしているだけで、ほとんど話さない彼が、女子となんか話して見たら、絶対に気持ちがバれ、からかわれること必至だろう。そんな思いを持ちながら、真面目な顔で、自分の席で、ひたすら「悩まない」という本を読んでいるのだった。

 ある日の入浴中に、橋本太郎には、ある考えが訪れたのだった。

「今度電車で一緒になったら、ダメでもいいから、気持ちを伝えてみよう」

そんな気持ちである。彼は引っ込み思案ではあるものの、思いのほか活発で落ち着きのない子供なのである。少人数の時だと、そんな本当の自分を存分に出すことが出来た。

 次の日、覚悟を決めて電車に乗った。隣にいたのはなんと......

 近所のおばさんだった。てめーじゃねーよ。そんな思いを必死に隠す青年の姿がそこにはあった。学校に着くと、ひたすら観察。

 今度こそという気持ちで乗った帰りの電車で隣にいた人は、まさかのレイザーラモンRG。
ある意味すごい。こんなことない。しかし、彼の頭の中は、藤本実花でいっぱいのため、藤本実花の笑顔あるあるが言いたくて仕方なかったのであった。

 入浴中に、また勇気を出して、告白しようと心に決める。

 その次の日、覚悟を決めて電車に乗った。隣にいたのはなんと......
 
 虚無僧姿の修行中のお坊さん。ある意味、持っている男であった。なんなんだこの人選。
 学校ではひたすら嫉妬。

 今度こそという気持ちで乗った帰りの電車で隣にいた人は、まさかの、出張帰りの担任の先生。先生はこういったのだった。

「おう、橋本。今日は元気にやってたか?お前、顔が暗いからなー」

 自分の顔が暗い?橋本太郎は、自分は常に笑っていると思っていたので、少しショックを受けた。そして、こう返した。

「きょうやっと。『悩まない』読み終わりましたよ。先生も読みますか?貸しますよ」

「いや、もうちょっと他の本はないかな?」

「だったら、あの本がいいですよ。『地獄の楽しみ方』これどうですか?」

「はあ.....」

そうじゃない感が半端ではなかったのである。

 家に帰ると、虚無感からすぐゲームを始めてしまった橋本太郎。それを見た親が一言。

「太郎、勉強したら?」

太郎はこう返した。

「じゃあ、この無限ワンナップで母さんが99機行けたらやるよ」

 ここから、橋本孝子(42歳)のマリオの挑戦が始まった。
 
 1回目は4機増えたところで、クリボーにやられてしまう。
 2回目は、階段に上った瞬間にノコノコに当たり自滅。
 3回目は、8機でクリボーにやられてしまう。
 
 そんな不甲斐ないプレイを重ねること68回目。
 
 とうとう89機まで到達したのだ。あと10機。ここで、飼い猫のミケが、近づいてきて邪魔をしてしまう。97機で自滅。
 これ以降は30機にも満たないプレイが繰り返された。
 挑戦回数のトータルが109回目を超えた時点でゲーム嫌いな父親が帰宅。
 
 母が事情を説明すると、父が挑戦する羽目になってしまった。
 父が何気なくプレイすると、1回目で99機達成してしまったのであった。

 次の日の帰りの電車で隣にいた人は、まさかの藤本実花。

 勇気を出して、たどたどしいながらも気持ちを伝えようとするものの、直前で躊躇い、
なかなか言葉を吐き出せない。

 あと2駅で別れてしまうその時、彼に何かが乗り移った。急に自分に自信が出てきた。

「藤本さん、一目見た時から、好きになりました。付き合って下さい」

 語尾が延ばし延ばしの上に、声も裏返り、傍から見ると情けないこの告白。藤本の返事は。

「ごめん。成績3位未満の人とは付き合っちゃいけないの。親が怒るの。
 でも、橋本君のことは、どんどん好きになっていったから、ばれないように付き合おう」

 電車内で二人はぎこちない握手をした。

 その後というもの、学年一のモテ女故に、隠し通すのはなかなかの至難の業だ。橋本太郎は嬉しさをこらえきれなくなり、ついに、学校の廊下で、並んで歩いていた二人は、手をつないでしまったのである。
作品名:不器用男の恋 作家名:しょー