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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「時のいたずら」 最終話

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「はい、その日夢を見ました。望みを叶えたいのならすぐに支度をして西の方角に旅立て、とのお告げでした。枕元に立たれたのは亡くなった祖父でした。わたくしの悲しみをあの世から見て戴いていたのでしょうか、そう言う気持ちになりました」

「夢に出てきたおじいちゃんの言葉を信じて家を出たというんだな?」

「そのようにした方が良いと考えたのです。もう大丞様のお屋敷には伺いたくないとの思いも強かったですし。式部様へはお手紙を残して世も開けやらぬ間にそっと抜け出しました」

「祖父の言葉を信じた一番の理由は何だったんだ?」

「夢だとは思えなかったからです。目の前に立っていたのは幻ではなくその人だったと思えたんです」

「導かれたと思ったんだ。う~ん、信じがたいけど藤にはそうすることが救いの道だと思えたのだよな?」

「はい、その通りです。しかし、お屋敷を出て直ぐに思い直したんです。少し冷静になったと言っても過言ではないのですが、引き返すことにしました。来た道を戻るとそこにあるべきお屋敷は無くうっそうと茂る竹やぶになっていました。訳が分からず探し回りましたが竹やぶとまっすぐに伸びる小道しかなかったのです。その道の向こう側はわたしが閉じ込められた暗闇だったのです」

「夢の中の世界に迷い込んだという感じに思えるね。この世とあの世を繋ぐ隙間と言うか境目と言うかそう言う場所に辿り着いてそこから踏み出してしまったと?」

「祖父の呼ぶ声が・・・聞こえたんです」

「でも居なかった」

「はい、声はもう聞こえなくなりました。振り返って自分が迷い込んだ入り口に明かりがさしていたので夢中で走りました。後は最初にお話した通りです」

「不思議としか言いようがないけど、この世に俺が引っ張りだして何かが変わったと感じるのか?」

「いえ、そうのようなことは・・・しかし、再び祖父の夢を見ることがあったら、また元の世界か違う世界へと誘われるような恐怖を感じます」

「今はおれが傍についているから大丈夫だよ。それに夢を見ても着いて行かなければ何も起こらないから安心しなさい」

「心得ました。どのようなことが起こりましても元の世界に戻りたくはございません」

「おれもあんなふうに藤が現れたからいつか突然いなくなってしまうんじゃないかと思ったことがあるよ。でも今話を聞いて誓った。俺が行かせないって」

「心強いです。藤はそのようになりましたら命を絶つ所存でございます」