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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅳ

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 不愉快な回想を振り払うように、美紗は地下鉄の階段を駆け上った。地上に出ると、自宅がある街とは違う、しかし、馴染みのある風景が広がった。四車線の大きな通りを、車がひっきりなしに通っている。金曜の夜だからだろう、足早に行き交うスーツ姿の人影が、やや多いように感じる。
 高層ビルの窓明かりを眺めながら少し歩き、すぐに暗く細い路地に入った。何度か二人で来た道を、一人で足早に歩く。突き当りにある十五階建ての雑居ビルに入ると、躊躇なくエレベーターに乗った。
 なぜあのバーに足が向くのか、分からない。ただ、今だけは、誰もいない部屋に帰りたくなかった。かといって、「親が離婚したかもしれない」などと間の抜けたことを気安く話せる相手もいない。とにかく一時でいい、自分の身を置く場所が欲しかった。

「いらっしゃいませ。おや、鈴置さん。こんばんは」
 L字型のカウンターの中にいたマスターは、すぐに美紗に気づき、柔らかな声をかけた。カウンターを挟んで彼の前にいた長身の客が、振り向いた。
「あ……、日垣1佐」
 美紗は露骨に当惑の色を浮かべ、一歩後ずさった。日垣のほうも、明らかに驚いた顔をしている。
「いつもの席にお移りになります? 今、ちょうど空いてますよ」
 マスターは二人の返事を待たず、日垣が飲んでいた水割りのグラスをトレイに載せた。上官の顔を見るなり逃げだすのは、かなり失礼だろうか。美紗が迷っている間に、日垣は席から立ちあがった。





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(「カクテルの紡ぐ恋歌 Ⅴ」に続きます。表紙に「Ⅴ」のリンク先がございます。どうぞ宜しくお願いいたします。本シリーズは、現在Ⅺまで続いております。「カクテルの紡ぐ恋歌」のタグ検索で、シリーズすべてが表示されます)