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ダンス戯曲 イージオ&マーサ

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ジュリア      そこなんだけど、もう少し腰を落としたほうがいいんじゃな
          い。あと左から右にスウェイする感じ

 ジュリアの動きを真似するカシバル

ジュリア      それから腕を突きだすときは、ただ突き出すんじゃなくて、
          肩から回すようにするの

 盗賊たちもジュリアに従って真似る

ジュリア      一度やってみて

 ジュリアの振付通りに踊る盗賊たち

ジュリア      すごくいい、良くなった
カシバル      ほんとだ。俺もなんか物足りない感じがしてたんだよ。あり
          がとう、ジュリア
ジュリア      どういたしまして・・・って私、なんで会話してるの? 
ヴィンス      (カシバルを横目で見て無言)・・・・
ジュリア      どうなってるの、ヴィンス
ヴィンス      (取り繕いながら)・・・・

 無言のヴィンスにパンチが割り込んでくる

パンチ       100年も人形やってれば、魂のひとつくらい宿るってもん
          さ
ヴィンス      パンチ、それは人間には話さない約束です
パンチ       仕方ないだろ、聞こえるってんだから

 スタスタと近づいてくるパンチに慄くジュリア

パンチ       俺は、パンチ。で、こいつはカシバル。白鳥のリーダーがク
          ラリスで、お姫様がタマシャってんだ

 驚きが止まらないジュリア

パンチ       生まれも育ちも違うが、ここに居る奴らは全員マイステル・
          イージオに拾ってもらって、芝居を続けさせてもらってっ
          るってわけさ

 カシバルやクラリスたちを驚きと尊敬の念で眺めるジュリア
 一段高いところからタユーが恫喝する

タユー       ええ加減にしなはれ、あんたら!
パンチ       タユー
ジュリア      タユー?
タユー       この娘はイワンを殺したならず者や。死罪張りつけさらし
          首や。もう忘れたんか!早いとこ叩きだしておくれ!

 タユーの元に駆け上がるパンチ

パンチ       タユー、落ち着け。イワンのこと忘れるわけないじゃないか

 暗い顔に急変する人形たちを見て落ち込むジュリア

ジュリア      知らなかった・・・。そうなんだ・・・ただの人形だと思っ
          てた。タユーさん、みんな、ごめんなさい

 深々と頭を下げるジュリア
 床に額をつけて土下座するジュリア
 タマシャやクラリスたちが舞台に出てくる

タユー       あんたら、騙されたらあかんで
パンチ       でもなあ、タユー
タユー       でも、何やの?
パンチ       ジュリアって・・・
タユー       あの子が・・・どないしたん・・・早よ言い
パンチ       なんか・・・俺たちと同じ匂いがするんだよね
タユー       同じ匂い? アホくさ
パンチ       あの子もきっと苦労してきたんだ。ダンスだって芝居だっ
          て・・・
タユー       たかが人間のおなごやないか
パンチ       そうさ、ジュリアは人間だよ。人間はさ、過ちを犯す生き物
          なんだよ
タユー       ジュリア、なんぼ稽古したかて無駄やで。あんたは舞台には
          立たれへんのやさかい
ジュリア      舞台に立てない?
ヴィンス      どういう意味ですか、タユー。ジュリアが舞台に立てないと
          は。本公演は行わないと・・・
パンチ       違う違う

 慌てて降りてくるパンチ

パンチ       公演にジュリアはイワンとして出るのであって、ジュリアと
          してではないという意味。頼むよ、タユー。それより次のシ
          ーンの稽古にかかろうぜ、ヴィンス。次、俺が出てるシーン
          な
ヴィンス      それは予定にありません
パンチ       なんでだよ
タユー       あんたら好きにしたらええわ。私はジュリアを許しまへん
          よってに、絶対。この性悪女!

 膝をついたまま頭を抱えるジュリア
 当惑する人形たち



第2幕第2場

 深夜のステージ
 ビッグハンドの手の上に足を投げ出して座るジュリア

パンチ       いいかい、横?

 頷くジュリアの横にパンチが並んで座る

ジュリア      何か不思議。人形と会話するなんて
パンチ       うん、俺も不思議
ジュリア      みんなにもイージオにも悪いことしちゃった。いっつもそ
          う。トラブルメーカー
パンチ       あれは事故だったってみんなわかってるよ
ジュリア      ありがとう。なんだか一緒にお酒でも飲みたい気分
パンチ       付き合うぜ
ジュリア      ねぇ、パンチ。あたし、イワンの代役やりきれるかなぁ
パンチ       心配ない。俺の見る限りあんたなら大丈夫だ
ジュリア      本当にみんなと同じ舞台に立っていいの?
パンチ       みんな口に出して言わないけど、あんたには感謝してるんだ
ジュリア      感謝?
パンチ       自由に踊れる面白さを久しぶりに思いださせてくれたって。
          俺たち、30年間ずっとこいつの言いなりだったからね


 深夜の作業場
 衣装の縫製をするイージオ
 その遠く背面にマーサの霊が浮かぶ

マーサ       イージオ、イワンがあんなことになったのよ。寂しくないの
イージオ      (それどころじゃない)

 ミシンを踏むイージオ

マーサ       張りきっちゃって。なんだか楽しいそう
イージオ      (何の用だ、マーサ)
マーサ       ジュリアね。それはジュリアに着せる衣装かしら?
イージオ      (邪魔するな)
マーサ       まあ、私とお話して下さらないなんて、なんだか妬けちゃう
イージオ      (すまん、マーサ)

 ミシンを踏む続けるイージオ


 稽古場
 暗い舞台上ピンスポットでスマホが浮かびあがっている
 舞台左上には紅蓮の灯りに浮き立つタユー
 スマホが宙に浮かび、タユーの右手に着地する
 プッシュボタン音に続いて呼び出し音

タユー       もしもし、警察ですか・・・



第2幕第3場

 朝市で賑わう街角
 アコーディオンの音色が鳴りひびく
 大道芸人が華麗な芸を披露し、その周囲を子どもたちが取り囲む
 カフェテラスでお茶を飲むご婦人たち

ヴィンス      おはようございます、市民の皆さま。恒例になりましたイー
          ジオ&マーサ人形劇団チャリティ公演は本日午後3時開演で
          ございます

 集まった子どもや老人たちにチラシを配るヴィンス

老人A       (おはよう、ヴィンス。ご苦労さんだね)

 老人たちもチラシを手にとる