小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ダンス戯曲 イージオ&マーサ

INDEX|6ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

第2幕




第2幕第1場 

 劇場ビッグハンドステージ
 舞台袖でヴィンスとパンチが小声で話す
 暗い舞台上、タマシャ、カシバル、クラリスが亡霊のように点在している

パンチ       どうなってる、ヴィンス。あの子が主役なんてあり得んだろ
ヴィンス      マイステル・イージオのお考えです
タマシャ      人間と一緒に舞台に立つなんて考えただけで鳥肌がたっちゃ
          う。しかもイワンを殺した子よ。死刑にしてほしいわ
ヴィンス      人間界では人形を壊したくらいでは死刑に問えません
カシバル      あいつを俺たちに押しつけるなら、俺たちは稽古も本番も
          ボイコットするぜ
 
 人形一同、賛同する

ヴィンス      まぁまぁみんな、落ち着いてください。稽古も公演も予定
          通り行います。ただしジュリアが離脱するようなことがあ
          れば・・・イワンの芝居の部分を省いたダンスシーン中心
          のガラ形式にすることを現在考慮中です
パンチ       ジュリアが離脱する・・・そうか、あの子に出演を諦めさ
          せればいいのか
タマシャ      マイステルにあの子じゃ使い物にならないって思わせれば。
          そうよねヴィンス
ヴィンス      私はなんとも・・・
クラリス      私たちのスキルとテクニックについてこれるはずないわ
カシバル      どうせ早々と尻尾を巻いて逃げるさ
パンチ       100年のキャリアがどんなものか見せてやろうぜ
タマシャ      あ、ジュリアが来た

 全員舞台から消え、ジュリアが稽古着で舞台に現れる
 タオルとスマホを置き、舞台の中央でストレッチをするジュリア
 立ち上がってさらにアップしようとしたとき、背後に気配を感じるジュリア
 ふと気配を感じ振り向くと、薄暗い舞台全体に60余体の人形が浮き立つ
 慄いて人形たちに背中を向けるジュリア
 ジュリアがゆっくり振り向くと舞台上から人形の姿は消えている
 椅子を一脚舞台端に運んでくるヴィンス

ヴィンス      ジュリア、準備はよろしいですか
ジュリア      (ええ、どうぞ。こんな感じかしら)
ヴィンス      あのジュリア。声を出す必要はありません
ジュリア      (だって台本にセリフが)
ヴィンス      セリフは仮のものです。台本のセリフに沿って人形が感
          情表現します

 声を出さず表情豊かに演技するジュリア

ヴィンス      ジュリア、ジュリア。口を尖らせたり顔をしかめるのも
          厳禁です。表情を変えないでお願いします
ジュリア      (笑顔も?)
ヴィンス      そうです
ジュリア      (難しい)
ヴィンス      動きだけで表現するのが人形劇ですから

 仕切り直すも戸惑うジュリアをヴィンスが呼び寄せる

ヴィンス      ジュリア、まずはこちらへ
ジュリア      (え、私?)
ヴィンス      まずはそこに掛けて、人形の動きをよく観察してくだ
          さい。第1幕シーン5、晩餐会のダンスシーンのリハー
          サルです。レディ

 人形たちが位置につき音楽が鳴り始める
 30余体の人形たちによる力強く美しいダンスが繰り広げられる
 あっけにとられるジュリア

ジュリア      (すごい、すっごくいい。私、ナメてたわ)
ヴィンス      これをあなたにやってもらいます。できますか、ジュリア
ジュリア      (できるかなぁ)
ヴィンス      やめますか?
ジュリア      (ううん、やる。イージオにやるって言ったんだから)
ヴィンス      いいですかジュリア、舞台の上ではあなたは人間では
          なく人形なのです。ではシーン7、イワンとタマシャが
          初めて会って恋に落ちる場面パドゥドゥです

 ポーズをとるタマシャとジュリア
 動き始めると何度もタマシャの裏拳や足払いを喰らってバランスを崩すジュリア
 舞台袖で手をたたいて喜ぶパンチ
 タマシャの動きを頭でなぞって再挑戦するジュリア
 タマシャの不意打ちにも敏捷に反応し、打撃を避けるジュリア
 徐々にタマシャとジュリアの間合いが合ってくる
 ダンスの最後にタマシャを抱いたジュリアの唇がタマシャの顔に近づく
 顔を赤らめて衝立のうしろに消えるタマシャ

ジュリア      (どうだった、ヴィンス?)
ヴィンス      (不機嫌そうに)次はシーン11。イワンが森で妖精たち
          に誘惑されるシーン

 白鳥の衣装で現れる4人のバレリーナ人形
 クラリスがピケターンでジュリアに接近しポーズを決める(挑発)

ジュリア      (ええっ、私に真似しろって?) 

 残りの白鳥もそれとなく挑発する
 ターンしようとして何度もつまずくジュリア
 フェッテに失敗するジュリアを見て笑いをかみ殺す白鳥たち
 舞台袖のパンチやカシバルも安堵の表情

ジュリア      (仕方ないでしょ、ショートブーツなんだから。ルルヴェ
          すらできやしない)

 ブーツを脱いで床に叩きつけると、カツカツといい響きがする
 ブーツを履き直し立ち上がって軽くタップを踏むジュリア
 両腕を真下に下ろし、足だけのステップで踊るジュリア
 巧みな足さばきに注目するクラリスだが、すぐに無視する
 クラリスに近づいて挑発するジュリア

クラリス      そんなの簡単よ

 簡単そうに見える民族ステップが上手くできないクラリス
 ステップのコツをジュリアがクラリスに教えると、たちまち上達するクラリス
 ジュリアと同じステップを踏みながら、残りの白鳥たちを手招きするクラリス
 しぶしぶクラリスたちにつき合うが、またたく間に上手くなる白鳥たち
 ジュリアがスマホで音楽をかけると、一気に盛りあがる

クラリス      これ、楽しい

 足を止めて楽しげにダンスを続けるクラリスたちを見るジュリア
 ヴィンスが音楽を止める

ヴィンス      クラリス、予定にないことをしてはなりません
クラリス      だってこれ、楽しいんだもん

 ジュリアがクラリスを制止するヴィンスに向かって

ジュリア      いま、楽しい、って聞こえた気がする
ヴィンス      気のせいです
ジュリア      この子たちが言ってるように聞こえたんだけど
ヴィンス      空耳です。人形が言葉を発することなどあるでしょうか
ジュリア      そうかなぁ

 首を傾げながらクラリスを見送るジュリア

ヴィンス      次はイワンがカシバル率いる盗賊たちと戦うシーンです

 カシバルと12人の盗賊が隊列を組み、威嚇するようなダンスを展開する
 振り合わせをしながらカシバルたちを見ていたジュリアが首を傾げる

ジュリア      ちょっといい?

 カシバルたちの動きが停まる