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ダンス戯曲 イージオ&マーサ

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ヴィンス      お招きしたお客様ではありませんね
ジュリア      (こいつら喋った)
ヴィンス      はい?
ジュリア      (この人形らが何か喋ったんだよ。尋常じゃない)
ヴィンス      人形が喋るはずないじゃありませんか
ジュリア      (いや、確かに喋った。それで私の腕をつかんだんだ。びっ
          くりして振りほどいたら・・・)
ヴィンス      よくできた人形ですから、そういう勘違いもあるかもしれま
          せん。
ジュリア      (勘違い? そうかなぁ・・・)
ヴィンス      それにしても、よりによってイワンを・・・イワンはこの劇
          団の花形スターなのですよ。あなたには関係ないことですが
ジュリア      (たかが人形でしょ)
ヴィンス      たかが人形、されど人形です。ああ、これはひどい。イージ
          オ様が悲しまれる

 勝手口のドアから逃げようとするジュリア

ヴィンス      開きませんよ

 後ろ手でドアノブを触るジュリア

ヴィンス      ところで名前は?

 ふてくされて答えないジュリア

ヴィンス      いいでしょう。とにかくこちらにお座りください、今主人
          を呼んでまいります

 ナイトキャップをしたイージオが現れる

イージオ      (どうしたヴィンス。騒がしいようだが・・・)
ヴィンス      イージオ様、お休みのところ申しわけございませんが・・・
イージオ      (イワン、イワン。イワンに何があった)

 壊れたイワンの部位を抱きかかえるイージオ

ヴィンス      ご紹介します。こちらが当家の主人でイージオ&マーサ劇
          団の座長マイステル・イージオ様です

 申し訳なさそうにイージオに会釈するジュリア
 ジュリアの顔を見て一瞬驚くイージオ
 ヴィンスに部屋を明るくするように指示する
 イワンを机の上に置き、あらためてジュリアの目や耳を観察するように見るイ
 ージオ
 バランスを崩しかけ机に手をつくイージオ

ヴィンス      大丈夫でございますか?
イージオ      (大丈夫だ、何でもない)
ヴィンス      すぐに警察に通報しましょうか?
イージオ      (いや、待て)
ヴィンス      はい
イージオ      (この娘、名前は?)
ヴィンス      お答えいたけません
イージオ      (何か事情があるに違いない。すまんがヴィンス、この子に
          事情を聴いてくれないか)
ヴィンス      警察への通報はいかがいたしますか?
イージオ      (事情を聴いてからでもいいだろう。私はイワンの修理がで
          きるかどうかやってみる)
ヴィンス      承知しました

 ジュリアを振り返りながらイワンを抱えて作業部屋に戻るイージオ

ヴィンス      何か事情がおありではないかと当家主人が申しております。
          真にお心の広い方です。さあ、お話しいただけますか

口を閉ざしたまま態度の悪いジュリア

ヴィンス      では自己紹介からしましょう。私は当家に執事ロボットの
          ヴィンス。あなたのお名前は?

稽古場隣接の作業場
 引き出しから写真を取りだすイージオ
 写真を見つめていると後方の壁面にマーサの亡霊が浮かび上がる

マーサ       ずいぶん古い写真ね。
イージオ      (面影が若い頃の君にそっくりだ。きっとあの子に違いな
          い)
マーサ       私の若い頃に似てるからって、そうとは限らないわ
イージオ       (どうしてそんなことを言う。会いにきてくれたんだよ) 
マーサ       そうね。人形劇を続けていればいつか娘に会えるかもしれな
          い。そんな思いで旅を続けたわね。ヨーロッパ中から東南ア
          ジアの果てまで何年も。その願いがこんな形で叶ったのかも
          しれない。
イージオ       (神様の思し召しなんだよ)
マーサ       でもあの子は、本当に私たちの娘なのかしら
イージオ       (そうに決まってる。修道院の話、年恰好からして・・・)
マーサ       よく考えて。仮にあの子があの日修道院の軒先に置いてきた
          ジュリアだったとして、あの子にとってどうされるのが本当
          に一番いいのか
イージオ       (父親だと名乗ることがいけないというのか)
マーサ       親らしいこと何もしてあげられなかったでしょう
イージオ       (・・・・)
マーサ       私たちは心の中で娘の幸せを祈ることしかできないの
イージオ       (いや、そんなことはない)

 マーサが消える


ヴィンス      ファミリーネームがないのですか。
ジュリア      (そう、ジュリアだけ)
ヴィンス      ではジュリアとお呼びします。ジュリア、当家に無断でおい
          でになられた理由をお聞かせください
ジュリア      (追われて仕方なく)
ヴィンス      誰に追われたのですか?
ジュリア      (警察)
ヴィンス      警察に追われるような犯罪行為をすでにされたのですか?
ジュリア      (私は悪くないの)。
ヴィンス      よく理解できません。何も悪いことをしてないのに警察が追
          ってくると?
ジュリア      (ちょっともめたけどね。警察沙汰になるようなことじゃな
          かったのに)
ヴィンス      それで警察に逮捕されたのですね
ジュリア      (うん、まあ。何も悪いことしてないのよ。なのに留置場に
          入れられた)
ヴィンス      警察に逮捕されて留置場に入れられた。本当に何も法に触れ
          るようなことはしてませんか?
ジュリア      (何も)
ヴィンス      おかしいですね。
ジュリア      (聞いて、警察署の留置場にカギ、甘いの)
ヴィンス      だからといって留置場を勝手に抜け出していい理由にはなり
          ませんね。
ジュリア      (狭いとこ好きじゃないの)
ヴィンス      好き嫌いの問題ではありません。ところでジュリア、あなた
          がしきりに操作しているその携帯電話は、あなたのものです
          か。警察署長が使っていたものと特徴がよく似ていますが
ジュリア      (借りたのよ、警察署長さんから)
ヴィンス      警察署長があなたに貸したのですか、携帯電話を?
ジュリア      (そう。ちょっとの間。ほら見てヴィンス。可愛い犬の写真
          がいっぱい)
ヴィンス      できるだけ早くお返しになったほうがいい