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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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白い開襟シャツの胸ポケットが
初めて買ってもらった万年筆のインクで
青く滲んでしまっていた
ぼくはホーローの白い洗面器に
シャツを入れた
青い水がポケットから流れ出た
その青は次第に薄くなり
洗面器から流れ出た

その万年筆で初めて書いた恋文の時も
乾き切らないインクを手で擦っては
丁寧に書いた文字がかすれてしまった
何枚も書きなおしたが
返事は来なかったと思う

ボールペンから万年筆へ
大人になった気分だったが
万年筆がうまく使えるようになったのは
高校を卒業したころかもしれない
6月の薄い色の青空は
洗面器の色を思い出す

心の中には
恋文を書いた頃のインクが残っているかもしれない
あのひとに
もう一度手紙を書いてみたくなった気がした
出したところで
返事は頂けないだろうが
そんな気持ちも楽しく思えた


作品名: 作家名:吉葉ひろし