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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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聞く子の約束

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 僕以外の取り巻きの男の話はたくさん聞いていたし、すぐに新しい恋人ができると思っていたけど、僕自身も大勢の取り巻きの一人だったのに、なぜか立候補するような考えは無かった。
 その後、別の彼氏ができたようだったけど、やはりその話は僕には詳しくしてくれなかった。新しい男の話をすれば、前に隠していた木田さんの話もしなくてはならなくなるから、今回も秘密にしているのだと分かっていた。

 ある時、キクちゃんがいつもニコニコしている理由を聞いたことがあった。自身が可愛いからモテルという意識からだと思っていたのに、それは予想外の答えだった。職場に仲のいい同僚がいないのと、親の七光りで働いていると思われていることで結構ストレスがあって、それを見せないためにいつも笑顔でいるのだという。
(大人の世界は大変なんだな)と思いつつ、(やっぱり木田さんとも、うまくいっていなかったのかな?)と感じた。(僕が守ってあげるという事はできないが、せめて、本気で笑わせてあげたい)と思っていた。

 でも僕は、キクちゃんからどれくらいの距離にいるのか、よく分からなかった。

 お互いの誕生日やクリスマスには会うことは無かった。僕にもその日は都合があるので、キクちゃんにも当然都合があっただろう。
 彼女のことで僕が使ったお金は、そんな時のプレゼントぐらいだった。プレゼントはアクセサリーなどでは、レベルが合わないのは明白だったので、僕の存在を意識してもらえるようなものを贈った。
 車のダッシュボードで、音に合わせて踊る人形。これは彼女が乗り換えた赤いBMWに、僕が卒業するまで載っていた。
 キクちゃんには抱えられないほどの大きなクッションは、彼女の部屋のコタツの横で使われていた。
 ピンクとベージュのチェック柄のマフラーは、彼女のカシミヤのコートに予想以上にぴったり合って、キクちゃんの可愛いさを際立たせた。
 その程度が僕の身の丈に合った贈りものだった。

 逆にキクちゃんにはいつも奢って貰っているので、プレゼントをくれとは言えなかったけど、誕生日やクリスマス、バレンタインには、それなりにしてくれた。
 二人でショッピングしていた時に、キクちゃんが“テディベアのぬいぐるみ”の手作りキットを見付けて、彼女曰く、なぜか、『心を込めて・・・』縫ってくれたこともあった。僕にぬいぐるみなんて、なんとも少女趣味でキクちゃんらしくないなと思ったけど、これが後に大きな意味を持つことになろうとは。
 キクちゃんからのプレゼントで一番高価だったのは、3回生の時の誕生日にくれた18Kのネックレスだった。さすがに驚いたけど、当時は白いTシャツに金のネックレスは定番のファッションだったので、僕はメッキのネックレスをしていたが、それを見て本物をくれたのだろう。とてもうれしかった。後に交際中の妻に引きちぎられたが・・・。

作品名:聞く子の約束 作家名:亨利(ヘンリー)