聞く子の約束
第5章 大人とのデート
異人館のある街。女子はこんな場所に行くと、(とても喜ぶ)・・・と思っていた。
僕にとってそこは、高3の時にグループデートをして告白し、ずっと好きだった女子と付き合うことになった思い出の場所だ。
冬が近付いた頃、キクちゃんと異人館観光に行くことになった。
はじめは車の話から、その街のドライブウェイに行ったことが、あるとかないとか。そんな会話をして、
「車で走ってみたいなぁ」
ぐらいで話していると、
「あの街は、いい所いっぱいあるからね」
というふうに話が進展して、僕は、
「休みの日に、異人館とか行きませんか?」
と、彼女に気に入られている自信があったので、思い切ってデート気分で誘ってみた。
そうして、スケジュールを念入りに考えた記憶がある。
一番安く付くのは、私鉄でゆっくり行くのがいいが、(相手は良家のお嬢様、自分の車を使うのがいいかな)と思っていたところ、キクちゃんは、ドライブウェイはそっちのけで、
「新幹線で行こう」
と言った。まさか2〜30分の距離に新幹線とは思いもせず、この感覚に付いていけていなかった。
新幹線の切符はキクちゃんが買ってくれた。レストランは僕がガイドブックでロシア料理店を探しておいたが、その代金も払ってくれた。とても嬉しいことだけど、キクちゃんと一緒にいると、ほとんどいつも彼女に払って貰っている。
(こんなことでいいのかな?)と思いつつも、払わせてくれないので仕方ない。でもその代償に、その日は僕が想像していたデートのようなものではなく、まるでキクちゃんのお供で、キクちゃんの気分で散策したり、ベンチに座ったり、キクちゃんの目に付いたショップで買い物をして、その先の予定を組み直すのは、結構大変だと思った。