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六戸はるか
六戸はるか
novelistID. 59422
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空色のリュート

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空色のリュート

語り・・物語のナレーター。人でもよし、声だけでもよし、映像でもよし
少女、女性、老婆・・同一人物。空から落ちてきた


(M:Far from our world)
(FI)

語り:
昔々、空にも人が住んでいたと言う。これは、空から落ちてしまったとある少女の物語。

(FO)

少女:
気が付くと足が地面に付いていた。夕日のようなレンガの街並み、雪雲のような石畳。でも見上げた空はどうしようもなく遠かった。
急に何もかもが怖くなった。走って走って走って・・。足の裏の地面は石畳から土になって草になって砂になって、海まで来たところで自然と足が止まった。ハマユウの花が咲いていて、
「ねえ、さっきまで何もかもが空だったのに、今はどうしてこんなに遠いのかな」
ハマユウが大きく首を降ったから、風が強いことに気づいた。この風に乗れれば空に帰れるかもしれない。そう思った時だった。

(M:十一月のある日)
(CI)

少女:
音がした。胸の中が空で一杯になるような、そう、空色の音が。ハマユウがまた大きく首を降ったのに、帰れなかった。音が心に絡みついて、その音を地上において空に帰ることはできなかった。
音の主は浜辺でリュートを弾いていて、「私にも教えて下さい」そう頼みこんだ。
リュートともに色々な場所に行った。いろんな空があって、でも皆遠くて。リュートを奏でる度に空が遠くなって行くのに、リュートを弾かないことは私にとって苦痛でしかなかった。

(少女、リュートを弾く)

女性:
地上にきてから何年経ったかは10を過ぎたあたりから覚えていられなくなって、そうちょうどその頃からだろうか、私の周りから音が消え始めた。少しずつ少しずつ集めていた大切なものが、少しずつ少しずつこぼれ落ちて行く。
川のせせらぎも、木々のざわめきも、朝になると街の人々が開ける窓の軋む音も。
愛しいかった。消えて行った。
最後に私に残されたのは、空色の音だけ。その音が消えなかったことに安堵して、それが無性に悔しかった。

老婆:
いつの間にか、自分の好きな時に好きな場所に行くことが出来なくなっていて、今となってはベッドから起き上がることにも他人の力を借りなければならない。今の私の空は、あの四角い窓の向こうに見えるたった一片の空色だけ。
もう誰も弾く人がいないのに、リュートの音が心から音が溢れ出して、止まらない。
結局自分が帰りたかったのか帰りたくなかったのかは今になってもよくわからないまま・・(息絶える)

語り:
こうして老婆は眠るように息を引き取った。なぜかその右手には、一輪のハマユウの花が握られていたという。
ハマユウの花をみたら思い出してみるといい。足を止めて、空を見上げてみるといい。心から音が溢れ出すかもしれない。

(VU)

終演
作品名:空色のリュート 作家名:六戸はるか