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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「時のいたずら」 第十話

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「ここの家は代々天台宗の檀家だから、しっかりと経を読まされたの。なかなか覚えられなくてね、苦労したわ。あなたにはそのような苦労はさせないから安心して。私の代で古い習慣は終わりにするつもり」

「お母様、先祖の供養と天台様のお力を借りることは大切なことだと考えております。
わたくしは幸い天台の経を読めますのでお申し付けください」

「藤さん、天台宗のお経が読めるって言うの?何故?」

少し考えて優斗が話したように真実ではなくごまかすようにとの言葉を思い出した。

「理由は解りませんが記憶の中に残っております。先ほども式部様のお墓に参らせて頂き唱えさせて戴きました」

「それは頼もしいわ。本当優斗には勿体ない方ね。十八でしたよね?ご両親の躾が宜しかったのでしょうね。思い出せないことが悲しいわ」

「優斗さんはとても素敵な方です。初めて見たときからそう感じさせられました」

「まあ、そんなお惚気言って。いいのよ、無理しないで。あの子は気持ちが優しいけど、ちょっとわがままで見た目はごっついから良くないのよね。誰に似たのかしら。私も夫もそんなふうじゃないのに」

「そのように申されますと優斗さんがお気の毒に感じます。わたくしにはとても優しいですから」

「そうね、あなたほどの美人じゃそりゃ親切にすると思うわ。あの子三十過ぎてもう後がないからね。私たちも応援するから何でも話してね。悪いようにはしないから」

「はい、勿体ないお言葉です。」

少し話して香子は不思議な魅力を藤に感じさせられた。

「ねえ、ちょっとここにあるお着物着てみて。あなただときっと似合うと思うから。亡くなった義母からたくさん頂いたのだけど、柄が好みじゃないから着たくなかったの。どう、これなんかピッタリに感じる」

香子はそう言って桐ダンスから一枚の着物を出して見せた。
金糸を使った豪華な蒔絵風の立派な仕立てがされていた。

「お母様、このような素晴らしいものを・・・わたくしにはもったいのうございます」

「そんなことないわよ。さあ着せてあげるから立って」

鏡に自分の姿を映し出す。
何を思い出したのか藤の目に涙があふれ出していた。

心配した香子が尋ねる。