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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ゾンビで白鳥の湖

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「もう先生にはついていけない!」

バレエの生徒はかねてからたまっていた不満をぶちまけ
リハーサルルームから続々と退出していく。

「おい、本番は3日後なんだぞ!?」

「知らないわよ!」

プリマが逃げてしまったことで、目の前が真っ暗になる。
迫る本番にいったいどうすればいいのか。

「くそっ……これじゃ誰も使えない!
 今から新人を雇うわけにも……そうだ!」

悩んだ末に向かったのは墓場だった。


かつて一世を風靡したバレエダンサー達の墓を掘り起こし、
闇市で買ってきた蘇生剤を与えていく。

安らかな顔で眠っていたダンサーたちは
むくりと起き上がり地の底からはい出してきた。

「あーーあーー、マイクテストマイクテスト。
 ゾンビバレエ団のみなさん、こんばんは。
 今からみなさんには3日後にバレエを披露してもらいます」

「あ゛ーーー……」

ゾンビプリマたちはおそらく「Yes」という返事をする。

バレエでよかった。
言葉を使わないので、ボロが出ることはない。

肌の腐敗はファンデーションで隠せるし、
幸いバレエダンサーの化粧は濃い。気にする客はいない。

「演目は『白鳥の湖』。
 かつてバレエをやっていたみなさんならすぐに踊れるはずです。
 さあ、本番に向けて頑張りましょう!!」

深夜の墓地でゾンビバレエ団は結成された。



「アンドゥトロワ! アンドゥトロワ!
 あーーダメダメ! ぜんぜんダメ!」

明日に本番を控えたリハーサル。

ゾンビなので不満を言うこともなければ
厳しい練習に逃げ出すことはないので安心だと思っていた。

肝心のダンスがひどすぎた。

「はぁ……もっと柔らかく動けないのか。
 これじゃ白鳥じゃないよ」

長い間土葬されていたことで筋肉は固まり、
無理に動かそうとすると体からは血が噴き出す。

「参ったなぁ……明日が本番だってのに」

対策に悩んだ演出家は闇市へと繰り出した。


「いらっしゃい。なにかお探しで?」

「一度死んだ体を、生きていたころのように
 滑らかに動かせるような薬ってありますか?」

「ええ、ありますよ」
「あるの!?」

ダメもとで聞いたことだったがまさかの返答に驚いた。
闇市で「筋肉復元剤」を買うと、ゾンビバレエ団に渡した。

「アンドゥトロワ! アンドゥトロワ!
 す、すごい! 見違えるように変わってる!」

すぐに血が噴き出す欠陥だらけのゾンビボディから
かつてのぴちぴちお肌に生まれ変わったゾンビたちは
白鳥が舞うように華麗な踊りを見せてくれた。


翌日、本番公演の日がやって来た。

「いいかみんな。これまでやってきたことを
 そのまま舞台で出せばいいんだ。
 ようし、行って来い!」

ゾンビバレエ団はスポットライトが照り返すステージに躍り出た。
舞台袖にも白鳥の湖の曲が聞こえてくる。

リハーサルでは何度行っても完璧だった。
この期に及んでミスすることはないだろう。

「旦那」

きっとこの公演が終わったら一流の演出家の仲間入りに……

「旦那ってば!」

闇市の店主に声をかけられて驚いた。

「しーーっしーーっ!
 なんでこんなところにいるんだよ。
 今はバレエの本番公演だぞ」

「旦那に説明しておくの忘れてたんですよ。
 前に購入してもらった『筋肉復元剤』ですがね。
 あれは熱にめっぽう弱いんです」

「ああ、あれか。大丈夫、大丈夫。
 昨日はリハーサルで何度も試したけど大丈夫だった」

「そりゃリハーサルだからですよ。
 客の吐く息とスポットライトの熱で効果は下がります」

「え゛っ……」

慌てて舞台を見てみると、薬の効果がもう切れ始めている。
このままでは……。

「あっ!? 旦那! どこへ行かれるんです!?」

俺は舞台袖を出た。


そのまま舞台を見ていた闇市店主は、
ゾンビバレエ団からどんどん薬が引いているのがわかる。

さらに、綿密なリハーサルが体に刻まれたのが災いし
ゾンビたちは動かない体を動かしまくって、血を吹きだしていた。

「ああ、ああ……これはもうだめだ……」

ひとしきりステージが終わった頃に、
俺はふたたび舞台袖へと戻って来た。

「旦那、ステージはもうひどいことになっています。
 これじゃ到底一流の演出家として評価されませんぜ」

青ざめる店主の耳に入ってきたのは
会場を割らんばかりの大きな拍手だった。

客は全員席を立ち、ステージに向かって拍手を送っている。

「な、なんで!?
 ゾンビたちが血を吹きだしまくってたのに!」

「危なかったよ。血が噴き出る前に変更できてよかった」

「変更?」

店主は舞台の横に書かれている踊りのタイトルを見た。


『白鳥の 血の 湖』


とっさに「血の」が書き足されていた。

「白鳥の湖ではできそこないの踊りでも、
 血の湖なら完璧な演技だからな」

その判断の正しさは客の拍手の量でわかった。
バレエ公演は後世に長く伝えられた。





「いやぁ、素晴らしい演技だった!
 踊ったバレエダンサーにあってみたいな!」

客としていて見ていたVIPが勝手に楽屋を訪問したために、
踊り疲れ腹をすかせたゾンビたちに襲われた事件は

バレエ公演の大成功を吹っ飛ばすほどの大ニュースとなり
そのバレエ公演は後世に長く伝わることとなる。
作品名:ゾンビで白鳥の湖 作家名:かなりえずき