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再び訪れる春

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 帰るとき、タロウは「俺は感謝している。今日まで一緒に生きてきてくれこと。その気持ちをどう表していいか分からない」
「そんなことは言わないで。まるで……」
「まるで、何だ? 先がないように聞こえるか? でも、それはどうしょうもない事実だ。その事実を否定しないで素直に受け止めてほしい。俺は枯れた木だ。もう何も残っていない。かろうじてミナが残っている。それがとても嬉しい。だが、次の春は迎えられず倒れるような気がする。冬が終われば倒れる運命だ。もう一回、発作が起きたら助からない。医者からそう言われた。でも、もう十分に生きた。いっぱいやり残したような気がするが、でも今は運命を受け入れるような気がする。ミナ、お前はまだ枯れていない。また春を迎えられる」
「そんなの嘘よ。信じろというの?」
「信じてもらうしかない」
ミナの嗚咽を波の音が打ち消した。
「さあ、帰ろう」とタロウがミナの肩を抱いた。

長い冬が終わり、再び春になろうとする四月の初め、タロウは再び発作で倒れて入院し、あっけなく死んだ。彼が言ったとおりになったのである。その顔は不思議と穏やかだったが、その死に顔を見ながらミナは後悔した。これで本当に良かったのかと。あの時、海に飛び込んで死なせてやった方が良かったのではないかとさえ思った。

タロウは多くの資産を残した。生前、彼はその資産を全てミナに残すと言っていた。それを遺書にすると言ったら、ミナは縁起が悪いといって反対した。
タロウには父親の愛人の子で腹違いの妹がいる。疎遠な関係で、一度会ったきりだと言っていたが、その連絡先を聞いてあった。タロウが死んだとき、その死を、ミナはわざわざ伝えた。
数日後、ミナのもとにタロウの腹違いの妹が訪ねてきた。見るからに気の強そうな感じの女である。
ろくに挨拶せず、いきなり「遺産はあなたに譲らない」と言った。
「血のつながりのない、あなたに権利はない。結婚もしていないでしょ」
「私は最初から遺産なんてあてにしていない」とミナは言った。
「本当にそう?」と挑みかかかるような目をしていた。
「このマンションは?」
「このマンションは私が自分の金で買いました。名義も私です」
タロウの預金通帳、権利書などの財産に関わるものは、貪欲な妹が全て持っていった。残されたのは写真、衣服、絵、遺骨。滑稽なことに妹は「そんなものは要らない」と言った。血のつながりとは、所詮そんなものである。

タロウの墓を建てたり、遺品を整理したり、仕事先を探しているうちに、ミナの一年があっという間に過ぎた。
亡くなった同じ日に、めずらしく朝から雪が降り始め、昼を過ぎることにはさらに激しく降った。雪がまんべんなくあたりを白く染めている。ミナは駅前の通りを歩きながら、タロウと一緒に歩いた時のことを思い出した。イチョウ並木に葉が一つも残っていないことに気付き、不思議な気持ちになった。タロウを失った悲しみは今も消えないが、それでも「散るのは運命だ。避けることができない。だが、春になれば、また葉をつける。お前は生きられるだけ生きろ」と言ったのを思い出し、あらためて一年が過ぎたことを思わずにはいられなかった。
ミナに新しい男友達ができていた。タロウの死後で出会い、何かと支えてくれたのである。一緒に旅行するために彼が駅で待っている。
「春になったら、一緒になろう」と言ってくれたが、ミナは決めかねていたが、タロウの言葉を思い出し、ようやく一緒になる決心がついた。
やがて春になればイチョウは青々とした葉をつけ、通る過ぎる二人を祝福するに違いない。



作品名:再び訪れる春 作家名:楡井英夫