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大石 りゅう
大石 りゅう
novelistID. 59714
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風の皇子 タケハヤ その一、旅立ち

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その時、ぼそっとうね男の声が聞こえた。

「・・気ぃ付けて行くダ、タケハヤ。」

「・・・うね男!」

オラは、とても晴れ晴れとした気持ちになって、胸を張って、村長の館を出て行った。

旅の支度といっても、独り身の男のこと、そう手間がかかるわけでもない。その日のうちに、出立する用意が整った。オラは、村のひとびとに別れを惜しまれながら旅立った。中でもうね男が、いつまでも手を振りながら、見送ってくれていた。

オラは、村を一望できる小高い丘の上に立って、腰の巾着からある物を取り出した。それは、四角い、神猫の皮を張った箱に、細長い棹を取り付け、三弦の絹糸を張った、小指の先くらいの大きさの、神句器(がっき)だった。

オラがパンッと手を打って新鮮な風を当てると、その神句器はドクンッと鼓動して、オラの身長の半分以上ある大きさへ変化した。



これは、オラが考案した、オラ専用の神句器で、望郷の想いを込めて、¨ツガル三美線(ツガルジャミセン)¨と名付けていた。
¨三美線¨の名前の由来は、三弦の美しい絹糸を張ったその外見からも来ているが、何よりもつま弾いて美し、叩いて美し、さわり(つま弾いた後、残る余韻のこと)美しという意味の、三種の美しい音色に因んだものだった。

八百万の神のたしなみとして、神句器を扱うことは、発音形態の違う言語を話す異種族の神と会話するのに必要不可欠だったわけだが、オラはどちらかといえば趣味としてよくこのツガル三美線に興じていた。
オラは一つ二つ三美線をかき鳴らし、ツガルの里に寄せる思いを、即興で興じた。

津刈は北の果て 水穂の里よ

秋には黄金の   花が咲く

北国なれど     人の心の暖もりが

春待つ白銀の   根雪を溶かす

春にはさくら     秋にはもみぢ

でも何より       めんこいのは

人のこころよ おらがふる里 津刈

本当はこのウタを村のみんなの前で披露したかった。でも、そうしなかったのは、涙がこぼれそうだったからだ。

オラは、人知れず丘の上で、ぐいと涙を一拭きし、聞く人とて無かろうが、里に向かって大きく叫んだ。

「さよなら~っ!ツガルよ!オラ、いつか必ず、戻って来るがらナ~っ!」

こうして、オラの、超古代の日本を巡る、天皇探しの旅は、始まった。