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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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不死鳥おじいちゃんのあの世MAP

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「もうワシはダメじゃ……」

「おじいちゃん!」
「おじいちゃん死なないで!」

ピーー……。

心電図が悲しげな電子音を鳴らす。
医者はうつむいて腕時計を確認した。

「……午前2時30分です」

その直後、おじいちゃんは急に復活。

「いかん! ガスの元栓閉め忘れてたっ!!」

奇跡の復活を遂げたおじいちゃん。
医者も原因がつかめずお手上げだった。

「いやぁ、三途の川を初めてみたぞぉ。
 ははは。わしはまだまだ死なないのじゃ」

といった翌日におじいちゃんは息を引き取った。

「「 おじいちゃーーん! 」」

「……午前2時30分です。
 ご冥福をお祈りいたします」

医者が告げて静かに立ち去ろうとしたとき、
おじいちゃんの目が開いた。

「ってまだ死ねない! 孫の顔を見ておらん!」

おじいちゃんは二度目の復活を遂げた。

「針の山まで見て来たぞ。
 いやはや、あの世はなかなか広いのぅ」

「おじいちゃん……!」

家族も何がどうなっているかわからない。
医者も何がどうなっているかわからない。

ただ、事実としておじいちゃんは不死鳥のごとく
何度も死の淵に肩までつかりながら生還してくる。

その後もおじいちゃんは死んでは生き返り、
死んでは生き返り、死んでは生き返った。

おじいちゃんを看取る家族の人数もだんだんと少なくなり、
ついにはおじいちゃんが死んでも誰も来なくなった。

復活したてのおじいちゃんはこれに納得がいかない。

「やれやれ。せっかく天国の花園を見てきたというのに、
 誰もいないんじゃ語って聞かせられないじゃないかのぅ」

医者すら見に来なくなった病室で、
おじいちゃんはふと病院の案内パンフレットを見つけた。

「そうじゃ。あの世のマップを作ろう!
 何度も行き来しているから、わしなら作れるぞ!」

おじいちゃんは『あの世案内図』の作成に余命を費やした。

もともと認知症が進んで外出許可も出ないので
ちょうどいい時間つぶしになった。


おじいちゃんは誰もいない病室で静かに息をひきとり、
あの世に行って見て来た情景を、生き返ってから書き留める。

その姿はさながら歩いて日本地図を描いた
「伊能忠敬」の姿そのものだった(おじいちゃん談)。

「できた! できたぞ! あの世マップ!」

天国も地獄も隅から隅までを記したあの世地図がついに完成した。
地図にはあの世の施設はもちろん、
休憩スペースや憩いの場がどこにあるかも記している。

まさにおじいちゃん目線で作られた地図だった。

「さて、現世で出版してみようじゃないか」

おじいちゃんはかつて勤務していた出版社に連絡を入れた。



『あの世MAP 全獄版 2000万部突破!』



おじいちゃんの出したあの世マップは大人気。
お世話になりそうな高齢者はもちろん、
興味をひかれた若い人たちの手にもわたり社会現象となった。

おじいちゃんを息する粗大ごみ程度に扱っていた家族も、
毎日のようにおじいちゃんの病室に訪れるようになった。

「おじいちゃん、今日は調子いいの?」

「孫の顔を見るまでは死ねんからなぁ。ふぇふぇふぇ」

「それより、今印税はどれくらいなの?
 本はどれくらい売れたの? おじいちゃんはどれだけ儲けたの?
 ねぇ教えて。ねぇねぇねぇねぇ!」

「さあ、わからんのぅ。
 小さい文字は読めなくての」

おじいちゃんは自分の収入が書かれた紙を渡した。
家族はその桁数を見るやひっくり返った。

「おじいちゃんすごいわ!
 こんなに儲けているなんてびっくり!」

「老い先短いこの身に、今さら大金なんてあってものぅ。
 誰かが使ってくれればそれでいいと思っとる」

その言葉に、家族の目がぎらりと光った。
この日を境に家族でのおじいちゃんを取り合う骨肉の争いが始まった。

「さあ、おじいちゃん! 私の家で介護します!」
「いいや、おじいちゃんは俺の家で過ごすべきだ!」

「それじゃ、家族全員で順番に介護しましょう。
 それでいいわよね? おじいちゃん?」

家族の考えることはひとつだった。
「自分こそが遺産の相続になる」ということ。

いつおじいちゃんの心臓の音が止まるかわからない。
止まった時に介護されていた家は間違いなく相続しやすいだろう。

これは、遺産をめぐるイス取りゲームとなっていた。

その台風の目となっているおじいちゃんは……


「こんなにも大事にしてもらえてうれしいのぅ」

全然わかっていなかった。
かいがいしく世話されることに喜びすら感じている。

介護している家族の顔には「早く死ね」「ここで死ね」と
目をお金マークにしていても、老眼で見えていなかった。

「さぁ、おじいちゃん。
 これが孫よ。ガスの元栓もちゃんと閉めたわ。
 何一つ心残りはないわよ。安心してね、おじいちゃん」

「ああ、なんだか眠くなってきたのぅ……」

おじいちゃんは静かに目をつむり……復活した。
家族から落胆の声が上がる。

「くそ……次は長男の介護の番ね。残念だわ」

おじいちゃんはたらい回しのように
家族の家々を渡り歩いていた。

その道中に、かつてない死の波が押し寄せる。

「おおっ……こっ、これは……ガチじゃ……!
 ガチで死ぬ奴じゃ……!」

「あ、お客さん。降りますか?
 ……お客さん? お客さん?」

おじいちゃんはタクシーの車内で息を引き取った。
そして、二度と蘇ることはなかった。


おじいちゃんの葬式よりも火葬よりも先に、家族会議が開かれた。
議題は遺産相続。

「ということで、おじいちゃんは移動中のタクシーで死んだと」

「遺書は?」
「ない」

「失敗したわ! もっと長く介護していれば、
 おじいちゃんが死ぬ瞬間まで介護していたのは私になれたのに!」

「とにかく! 誰の家でもない場所で死んだんだから、
 おじいちゃんの遺産は全員で平等に山分けだ!」

「しょうがないわね……」

悔しがる長女を説得し、遺産は平等に分配された。
といっても、『あの世MAP』の売り上げは相当なもので
山分けしてもかなりの金額になった。

家族はその金でそれぞれの自宅を豪邸へと作り替えた。

そして、誰もが幸せに暮らしましたとさ。



――とはならなかった。

夜に止まないラップ音。
誰もいないのに感じる視線。

家族全員の豪邸に怪奇現象が起き始め、家族会議が開かれた。

「きっとおじいちゃんの幽霊よ!
 私たちの本心を見抜いて、呪ったのよ!!」

「ふ、ふざけるな! 本心はどうあれ、介護はしたんだ!
 恨まれる理由なんてあるか!」

「とにかく除霊! 除霊しましょう!」

家族は全員の金を集めて、凄腕の霊媒師を雇った。
そして、全員の家を見てもらうことに。

「こ、これは……!!」

霊媒師は思わず目を見張った。

「なにが見えたんです!? おじいちゃんの呪いですか!?」

「い、いや違う……。
 こんな物……はじめて見た……」

「いったい何が見えたんですか!?」

霊媒師は驚きに震える手で、霊の持つソレを指さした。


「幽霊がマップを……『この世MAP』を持っている……!」