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海野ごはん
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novelistID. 29750
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’50sブルース 延暦寺の階段、大原の桜

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霧の中に建ち並ぶ延暦寺の数々の堂を後にした美佳子と達郎は、車の中で次の行き先を決めた。
「どこに行きたい?」達郎が聞く。
「う~ん、ここからだと大原も近いね。私、そこ大好きなんだ。連れてって」
「京都、大原三千院か・・・。たしか、恋に破れた女が一人って歌があったな」
「よく知ってるわね。ずいぶん古い歌よ」
「それしか知らない」
達郎は笑いながらそう言うと、ナビに行く先を覚えこませ車のギアをDに入れた。
また、カーブが多い霧の中のドライブウェイを走った。

達郎は三千院までの道のり、今までにない質問をしてきた。
「旦那とは何故、離婚したんだ?」
普段の明るい達郎の話し方と違い、どこかモヤのように湿気を含んでいた。
「・・・。何を言っても怒らない?」
「怒るわけ無いだろう、ただ美佳子の本当のことを知りたいだけだ」
「嫉妬深い?」
「あはっ、そりゃ少しはそうかもしんない」
「焼きもち焼くかもよ。それでも聞きたい?」
「あ~、正直に全部聞きたい」
「私、結婚してたのに不倫してたの・・・。それでなんも悪くない旦那に別れてと言ったの」
「・・・・それで」
「あっさり別れてくれたわ。不思議なくらい。私にはいい人すぎる人だったみたい」
「それで別れて、その不倫の男と付き合ったのか?」
「うん、同級生だった。彼も奥さんと別れて私と一緒になるって言ってたけど、結局、何年も別れられず、私が見切ってやめちゃった」
「それはいつ頃?」
「たっちゃんと会った時」
達郎はフロントガラスの動くワイパーを見ながら、昔、美佳子とあった時を思い出した。
「それで、僕を呼び出したんだ」
「まあね。でも誰でも良かったわけじゃないよ。たまたまネットで気に入ったから」
「ずいぶん離れた場所の男を選んだんだな」
「その方が、都合がいい時だけ会えるしいいじゃない。ずるずるべったりはもう嫌だと思ったの」
「そうだね。実は僕もそうかもしれない。都合のいい女。会えればさせてくれる女。そう考えてた」
「恋愛って、たまにしか会えないほうが自分のイイトコだけ見せれるからいいよね」
「・・・まあな」
「たっちゃんが私の事、都合のいい女だと思ってても別に良かったよ。私もわかってた」
「・・・なんか、ずるいのかな俺達って」
「どうだろう?大人の深い恋愛は疲れるものね。逢いたい時だけ会って、楽しいほうがいいと思ってたから、あの頃は」
「だよな。いつも美佳子と会う時は楽しかった。何回目のデートだ、今回は?」
「まだ両手ぐらいだね。そして5年。早いね時間は」
「早いな」
車は水しぶきを上げて大原の里山のような風景に滑りこんでいた。

「私、ここの風景大好き。若い時京都に住んでる頃、よく来てた」
「京都に?そりゃ初耳だ、知らない美佳子がいっぱいいるな」
「初めてだね、私達のこんな話し」
「おもしろいよ。ニヤニヤして聞いてる」
「どうして?」
「若い時に恋愛して、恋に疲れた女が一人でここに来たんだろう・・歌のように」
「あはは、バカね。来たのは二人よ。いや三人かな。友達同士とか。何かあるたび来てた。青春の場所かな。あの頃は楽しかったなぁ~。私バカだから、その時も不倫してた。年上と」
達郎は美佳子の顔を見ると驚いた顔をした。まさか、もう一個不倫?この美佳子が?どこか見くびっていたのじゃないが想像を超えていたからだ。不倫なんて似合わない顔してるのにと達郎は思った。
「意外でしょ?」
「あ~、びっくりポンだ」
「嫌いになった?」
「まさか、それくらいでお前を嫌いになりはしない。大昔の過去だろ。へっちゃら」
「へっちゃらって言い聞かせてるの?いつものように」
「そんなことないよ。ほんと、全然平気。じゃなかったら昔のこととか聞きはしないよ。僕は美佳子の昔を含めてすべてが知りたいんだ」
「やっと?」美佳子は笑いながら達郎を見た。
「あ~やっとだな。5年もかかったな」達郎も笑った。
「たっちゃん好きっ!」いきなり美佳子が叫んだ。
「ああ、僕もだよ。僕も美佳子が好きだ。やっと・・・だけどね」
そのセリフに美佳子は心が疼いた。
この痛みはきっと達郎を本気で好きになってしまったからだろう。今更の今更だけど、遠距離恋愛、都合のいい男と女からやっと、本気で好きと思えるようになったんだと思った。