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ブラックバイト

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小雨が降りしきる、田舎の小さな墓地。
深夜の薄明りの中に、男が一人発泡酒片手に立ちつくす。
墓の前でその炭酸をあおり、己の先祖へと問いかける。
「俺は不幸な星の下に生まれてきたのか?」
30代中盤、恋愛経験もない。そして、、、










即座に違和感を感じた。
その職場のアルバイトは皆そろって、
機械の様である。
感情を厚いヴェールで保護しているらしい。
何の為に?
そして、入ってくる新人は、例外なく疑心暗鬼に囚われる。
円滑な人間関係を構築したところで、
何故か毎回見事に破壊されている。


「Aはマジでクソだな!給料泥棒だわ。」
Bに対し、ある人物が発言する。本気で。
別の日には、
「B死ねよ!使い物になんねぇ。」
Aに対し、Bを散々にこき下ろす。


この人物は店のオーナーである。
神業のような速さで仕事をこなし、恐ろしく早口でしゃべる。


成程。この人物は信用出来ない。
バイトを始めて数日で理解した。
誰もが口を揃えて「オーナーはいい人だよ。」
成程。只のイメージ戦略か。


嘘と対立。
互いを敵対させることで、
仕事の効率化を図る。
まるで植民地支配である。
これがこの職場の基本的なシステムらしい。
競争心の利用は構わないが、
人間関係が戦場のように毒々しい。


この職場のヒエラルキーはこのようになっている。
1.真の支配層
・支配層にいる人間の味方の振りをする人間。

2.支配層
・他に行き場がなく、イジメを黙認する人間。
・性根が黒い人間

3.奴隷
・全てバカのように信じ切っている人間。
・裏の構造を理解しつつも、バカな振りをしている人間。


「お前みたいな奴、他にどこにも行くとこねんだから!!」
「お前らなんかいなくても回していける!」
少しでも反対意見を耳にすると、
「あいつは神か!!!!天皇か!!!!総理大臣か!!!!!!!」
支配欲の権化である。
「お前の後ろにはいつも俺がいるからな!!!」
悪魔のような笑みを浮かべながら俺を眺める。
「俺のがお前より強ぇから!!」
この人は何を争っているんだろう。
俺に逆らう人間は殺す。
恐怖で人を支配したいらしい。
オーナーに文句を言う人間など皆無である。


巧言令色鮮し仁。
オーナーは、どこにもやましいところが見当たらない俺に、
常に不信感を抱いていた。
本気なのか、暇つぶしの冗談なのか、抹殺したいのか。
真相はどうだって構わないが、
ある日、あまりにも不信感を露呈してくるので、
「何もやってません!
何もやってないのにこれ程疑うのはおかしくないですか!!!」
頻繁過ぎる悪人扱いに耐えられなくなった。
その後、
事務室の近くを通り過ぎると、
待ってましたとばかりに、あざとく泣き出す。
これ程のタイミングの良さは、演技だと疑わざるを得ない。
「俺はもう許してもらえない。。」


ある日、恐ろしく憤ったお客さんが来店した。
1時間程、話を聞いて真摯に対応するも、
責任者ではない俺では全く話にならない。
そこで、オーナーに連絡し、事務所で応対してもらった。
小一時間程後に、そのお客さんがすがすがしい笑顔で戻ってきた。
そして帰り際に、
「ほんっと素晴らしいオーナーの下で働けて、あなた幸せね!!!」
大絶賛の嵐。
そして、その肝心のオーナーはと言うと、
意気揚々と、
「相手の気持ちになり切ってやった!」
俺がスゴイですねと称賛すると、
「もっと褒めて、もっと褒めて」
確かにスゴイ。けれど、
ダメだこの人。
お客さんへの申し訳なさより、自身の演技力自慢にはしってる。


「机の上にあった軍手捨てちゃった。」
普段一緒にシフトに入っている、俺が気にかけている仕事仲間が、
俺が自腹で購入したばかりの軍手を捨てたらしい。
机の上?には出していない。
となると、その場にはあとオーナーしかいなかった。
成程。
何故か、ロッカー内の鞄の中のボールペンが紛失したり、
いつの間にか戻ってきたりする。
ロッカーはあってもプライベートは無い。
それがこの職場。
そして、自分の手は汚さず、俺が批難できない相手に犯行を指示する。
俺が「軍手捨てられちゃいました。」とオーナーに話しかけると、
オーナー「自分で買ってるの?偉いね。」
以上。
責任者がイジメを追及せず、放置。
処分など別に求めてはいなかったが、
そんな非常識な職場など、そうそう見当たらない。
自分が犯行に関与しているからこそ、そんな態度をとっていたのだろう。


オーナーやその友人と長い付き合いのあった社員が、辞職された。
勿論、問題が無い人物だったとは言えないが、
どちらかと言うと、好感を抱いていたし、
その方の将来が心配ではあった。
俺「残念ですね。」
すると、オーナーは苛立ちを隠さず、
「俺等の態度見ればわかるだろ!」
さらに、
俺の悲しみを訝しがり、ニヤけながら、
「本当に悲しいなら、仕事しなくていいから、話してこいよ。」
その時の俺の姿が、共感しているような演技に見えたのだろう。
自分で自分の感情を疑ってしまった。
俺は本当に悲しいのだろうか?
だが、仕事を放棄してまで見送りしたい、という強烈な感情など、
滅多に抱くことなどないのではないか。
何より、「人の悲しみを疑う。」
つまり、オーナー自身は、
普段、様々な感情を演技しているということなのだろう。
円滑な人間関係を築くためには、
多少演技が必要だとは思うが、
演技力はいくらでも悪用出来る。
悪人がその技術を習得すること程怖いものは無い。










「(さほど重要ではない業務連絡)

大山のぶ代万歳!!!!!」
ドラえもんが云々と、
送信者はキチガイとしか受け取れない、意味不明の内容のメールが、
俺の名前で従業員全員に送信されていた。
名誉棄損も甚だしい。
只の悪戯な文章だけでなく、
連絡事項を記載する事で、逃げ道を作る狡猾さ。


確認事項を記入するノートに、
「・・してしまいました。すいません(E)」
そんな謝罪文の直ぐ下を見ると、
「ゆるさん!!!!!(俺の名前)」
大きな文字で、誰かが勝手に俺の名前を利用している。
敢えて平仮名なのも、
俺はバカだとのメッセージなのだろう。


名札に値下げシールならまだしも、
これらの行為は明らかに度を越えている。


批難すると、
「そんなつもりはなかった」
「ただの冗談」
気味の悪い笑みを浮かべながら責任逃れ。


これは、別に本業を持つオーナーの友人だ。
彼には介護が必要な重度の病を抱えた奥さんがいた。
結婚はしていないらしいが。
「あまりに悲しくて、集中治療室で寝泊まりしてた。」
「精神科で薬も処方してもらってる。」
辛い過去を背負った人間だ。
俺も当初は、本気で同情していた。
この人物もオーナー同様、神業的な作業速度が売りらしい。
だが、そのうち、
「俺、今日頭痛いから寝る。」
実際に数時間仮眠をとる。
「いいですよ。」
辛い人生でも頑張ってる人なんだ。
最初は喜んで引き受けていた。
が、
「今日やる気ない。」
「ダルイ。」
「C子と一緒なら頑張るけど、お前の時は仕事しない。」
当初のやる気はもう二度と見られなかった。
作品名:ブラックバイト 作家名:yusuke.N