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クエスト１，冒険の始まり

　ミーティングを終えた私はシャワーを浴びて制服に着替えて髪型を元に戻した。
　部活中は邪魔だからポニーにしているが、私はいつもツインテール、唯月はそのまま解いてストレートだった。
　荷物を纏めると萌達と供に部室を出た。
　でも帰るにはまだ時間が早いと言う事でファミレスに寄る事にした。

「「お、お待たせしました〜」」
　ウェイトレスさん達が苦笑しながら２がかりで注文を持って来た。
「わっは〜、いただきま〜す」
　萌は目の前に置かれた超を通り越して馬鹿としか良いようの無い……　まるでバケツの様に巨大な容器にフルーツやコーンフレークなど沢山ぶち込まれ、生クリームを盛られてチョコレートソースやストロベリーソースをふんだんにかけて飾りの花火が火花を散らすパフェにかぶりついた。
この店の最高メニュー『ハイグレートウルトラジャンボ・パフェ』は３０分以内に食べれば無料と言う物なのだけど、萌はこれを軽々と１５分以内に食べてしまう……　しかも時間は日に日に短くなっている。
これだけ食べて太らないんだから、一体食べた物がどこに行くかは永遠の謎だった。
店側も毎回タダ食い同然、大打撃となるので萌は要注意人物でマークされている、さっき苦笑していたのはこの為だった。
本当はお引き取り願いたいんだろうけど、お客ゆえに断る事が出来ない、そんなに嫌なら企画を変えれば良いだけの事なんだけど……　このパフェはこの店が経った時からある物なのでそう簡単に変える事が出来ないらしい。
萌は本当にこの世の幸せが１つに集まったように目を細めながら言って来た。
「むっふ〜〜っ！　この為に生きてるっス〜」
「お前の人生、随分安いな」
　隣で朋香がコーヒーを飲みながら言って来た。
「まぁ、気持ち分かるわよ、疲れた時に甘い物は必須でしょ」
　実は私もフルーツパフェを注文していた。ただし萌と違って通常サイズだった。
「それにしても、もう半年たっちゃったのよね」
　冷ココアを飲みながら唯月が言って来た。
　暦の上ではもう秋だって言うのにちっとも気温は下がらない……　全く太陽は働き過ぎだ。
　少しは休んでもバチは当たらないってのに……
　すると朋香が言って来た。
「唯月、何だよ、いきなり……」
「皆と知り合ってもう半年経っちゃったでしょう？　こんな感じて２年も３年もあっという間に終わっちゃうとなると思ってね」
　そう言いながら寂しそうに顔を顰めた。
　すると萌が細い眉を吊り上げながら言って来た。
「唯月ちゃん、辛気臭いっスよ〜、そんな先の事やめましょうよ〜」
「あ、ゴメンなさい」
「そうだよ、卒業なんてまだ先の話なんだからさ」
「来年って言ったら……　蒼の妹もウチの学校入るんじゃなかったっけ？」
「そうっス、茜ちゃんが後輩で来るっス！」
「まぁ、近いからね」
　私と萌と望がこの学校を選んだのは単に近いからだった。
　ちなみに唯月と朋香もそうだけど、朋香の場合はスポーツ推薦での入学だった。
　その朋香は嘲笑しながら萌に言って来た。
「って言うか、アンタ進級できんの？　留年して同級生になったりすんじゃない？」
「ムキィ〜っ！　アタシはダブらないッスっ！　それ言うなら望ちゃんだってぇ……　あれ？」
　萌は望を見る。
　さっきから望は会話に参加せずに一冊の雑誌を読んでいた。
「さっきから何読んでるの？」
　私は望の雑誌を見た。
　それはゲーム雑誌だった。
「これこれ、隣のクラスの連中が話してるの聞いてさ、何だか面白そうだと思ってね」
　望はテーブルの中央に雑誌を広げた。
　皆身を乗り出しページを除く。
　そこに書かれていたのは有名なソフト会社のゲームの記事だった。
　日本でも屈指のゲーム会社『ＣＬＯＵＤ』の出したゲームはとても人気で、発売と同時に売り切れになる事が良くあった。
　私もいくつか持っていて、昔は妹と良く遊んでいた。
　その会社が今年になってオンラインでゲームを作り出したらしい。
「オンライン・キングダム？」
　私はタイトルを読みあげる。
「あ、これ知ってるッス、そこの副社長がプロジェクトを任されてんでしょ？　テレビでもやってたっスよ」
「そこの副社長ってこれだろ？」
　望がページをめくると開発者の写真を見せた。
　何と副社長は何と私達より２つ年上の高校生で、小学校の頃からゲーム開発に携わっていて彼のアイデアや設定がゲームに貢献し、ゲーム業界からは『ゲームの神童』や『ゲームの貴公子』とも呼ばれていると言う。　
　しかもこれはオンラインゲームだからネットが繋がる環境なら世界中の人間もプレイ出来る。
「あ、そうだ！　みんなでこれやりましょうよ！」
　萌が言って来た。
「ええっ？　だってゲームでしょ？　高校生になってやるモンなの？」
　私は正直やる気になれなかった。
　中学２年くらいの頃からだろうか？
　普通に見ていたはずの漫画もアニメも大して面白いと思わなくなり、ゲームにも手を着けず押し入れにぶち込んである。
　すると萌は顔を顰めてパフェを食べながら言って来た。
「良いじゃないっスか別に！　……もぐもぐ！　減るもんじゃないんだし……　もぐもぐ！」
「喋るか食べるかどっちかにしろ！」
「そうよ、それに皆大変なんだから」
　私は唯月と朋恵を見た。
　特にこの２人は家庭の事情で色々多忙だった。
　唯月は家が神社で朝早起きして家の手伝いをしなければならない。
　朋恵も家が両親が共働き、下に幼い弟が３人と妹が３と言う大家族の為に家事が大忙しだったからだ。
「あ、私は構わないわよ」
「アタシも別にいいよ」
「えっ？　２人供忙しいんじゃないの？」
「弟達寝かしつけてからだから、その後なら大丈夫だよ」
「私も少しくらいなら……　って言うか蒼ちゃんも同じでしょ？　妹さんと２人きりなんだし」
「えっ？　ああ、それは……」
　私は目を泳がせた。
　ウチは両親が仲が良すぎて一緒に出かける事が多い。
　その為に家事は妹と２人で分担すると言う約束なのだが、部活で忙しい私は妹に任せきりにしている。
　その度に妹を怒らせてしまっている、もうすぐ受験なのは分かってるけど、私だって大変だ。昔から『若い内の苦労は』と言うし、言わばこれは試練。愛の鞭だ。うん！
　すると萌が言って来た。
「蒼はど〜すんスか？」
　萌は勝ち誇ったように言って来た。
「はぁ、分かったわよ……　でも皆大変なんだし、無理だと思ったら辞めましょう」
　私は肩を落として頷いた。