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発見

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Side.S
 俺が初めてあいつの事を知ったのは、入学して暫くしてから、まだサークルが新人の確保に躍起になっていた頃の事だった。毎度のように帰宅部として過ごす事を決め込んでいた俺は、興味も無いのに100%冷やかし目的で催し物に参加していた。飲み会は、食費がタダで済むのをいい事に、夕飯代わりにしていた。そんな中、ミス研とパズ研が合同で「新入生に挑戦!」と題して、校内に用意された謎を解いて景品を手に入れよう、という企画を出してきた。元々クイズもパズルも好きだった俺にとって、久し振りに暇潰しのいい材料になりそうだと思った。「謎」を解くという行為そのものが好きなんだ。でもやっぱり素人が用意した謎だから、さして時間をかけずに解ききる事ができた。一応景品を貰いに部室へ行くと、そこで嬉々として彼らが何年もかけて作り溜めてきた自前の作品を解いていたのが、藍沢だった。予定よりも大分速いタイムで正解を導き出された上に、二人も立て続けに正解をぶら下げてやってこられたもんだから、奴ら泣きそうになっていたっけ。
「やっぱ推理していく作業って、パズルを解いていくのとよく似ているんやなあ」
 はじめはそいつにも全く興味の無かった俺だけど、笑顔で問題を解きながら放ったその一言がすごく引っかかった。
 俺がそれらに対して持っている考えと、ほぼ同じだったから。
 空気を含んでいるみたいにふわふわな髪には、寝癖がしっかりと付いていた。楽しそうに笑いながら、血生臭い事しか書かれていないテキストを解体していく。推理をただのパズルとして考えて解くという、俺以上に変わり種の匂いがする男だった。

 結局その時は、お互いに声を交わす事もなかった。俺は景品を貰うとすぐにそこを立ち去ったし、あいつは問題に夢中になっていたから。だから直接顔を合わせて話をしたのは、その年の秋、学園祭においてだった。俺の友人が勝手に俺の名前でエントリーしていたので、屋外ステージでの出し物に出ざるをえなかったんだが、その出し物というのが、対戦型パズルの見本市を兼ねたトーナメント形式のパズル大会だったんだ。出場者は、一応学内の人間なら誰でも、となっていたが当たり前の事だが大部分はパズ研とその親戚ばっかりだ。俺やあいつみたいに、主催者と何の関わりも無い奴は皆無に等しかった。…でもまぁ安定というか、最終的に勝ち残っていたのはやっぱり俺らだった。予定通りに事が進まなかった事に首を捻る連中は無視したまま、無表情に無関心に勝ち進んだ決勝トーナメント。その最後の試合の前に、舞台袖で待機するあいつに声をかけられた。
「あのさ、君はこういうのが好きでエントリーしたんやなかったんか?」
 無邪気な感じで、単に気になったから聞いてみたみたいな風に、やや顔を覗き込むようにして尋ねられた。隣に立たれると、思いの外細く見える。成長期が遅かったのか、それともおっさん化が進みにくい奴なのか、本当のところは分からないが上手く誤魔化せば高1だと言っても通じるんじゃないか?
「同じ基礎クラスの奴が、俺がこういうのが得意だと知って、面白がって勝手に俺の名前で応募しただけだ。俺自身は、別にこんなのには興味なかったんだが…」
「せやけど、君はどの問題にも手を抜く事無く、正面から向き合った。そんでもって、相手に対しても真っ向から勝負しかけて、…まぁたまに容赦ない試合もあったけど、そいでも手を抜いて自分が負けるように誘導する事は一回も無かった。そりゃまたなんで?」
 それまでは相手の顔を見ずに、司会者が幕間になんか馬鹿らしい事をしているのをぼんやりと網膜上で像にしていたが、ここで俺はようやく、初めて相手の顔をまじまじと見た。それまでは面白く無さそうに、無関心にしていた俺が驚いたように自分の方に顔を向けたからだろう、相手の方も驚いたように目を丸くしていた。
「ど、…どうかした?」
「…いや。…お前、俺の試合、見ていたのか?」
「うん」
 返ってきたのは、勢いがよく簡潔な肯定。カックンと首を縦に振ったもんだから、あのふわふわの髪もそれに合わせてぽわぽわと揺れていた。
「全部見たよ」
「…それこそ、なんで」
 恐らく、今の俺の表情はさぞかし間抜けに見えるだろう。自分で自分の表情を抑え込むのが今回ほどやりにくいのは初めてかもしれない。
「ん?だって、君の解き方、見ていてスカッてするんやもん」
 俺が黙り込んでしまったのをよしとしたのか、あいつの喋りはまだ続く。
「他の人への接し方はどうでもえぇわ。俺かって人の事言えへんし、そんなこと一々気にしてもキリがあらへん。せやけど、君は問題に対しては真っ直ぐや。それに、解を探すために思案している時の君って、普通にしている以上にえぇ顔しているんやけど?」
「…そりゃどうも」
 どう反応すればいいのかよく分からなくて微妙な笑みを添えてこう返すと、まぁ自分と同じ性別の奴に顔を褒められても困るよなぁ、とそいつも困ったように笑っていた。
「それに…」
「?それから、どうかしたか?」
「…うぅん、今は言わへん。また言う気になったら言う事にする」
「…なんだよ、それ」
 問い詰めようとしたら、そこで幕間が終わってしまった。袖の向こうは、パズ研でもミス研でもそれに近い団体のどれにも所属していない、本当にただの一般学生からの参加者で行われる事になった決勝戦に大盛り上がりになっている。準備お願いします、と係の人に呼ばれてしぶしぶステージ上に上がろうとして、はたと気付いた。
 結局、相手の名前を聞いていなかったな、と。この大会はエントリーナンバーで呼ばれるから、対戦相手の名前は分からずじまいだったんだ。

「…ごめんなー、園田ー。わざわざ足運んでもらってー」
「そう思うなら、もうちょっとまともな内容にならなかったのか?こっちは晩飯代が浮いて助かったが、完全に蚊帳の外だったんだがな?」
「ごめんってば!女子がどうしても園田を引っ張り出してきてくれって煩かったんや!君に嫌な気ぃさせるつもりは、最初からなかったんや!ほんま、ゴメン!」
 今年度の授業も試験も全て終わって、バレンタイン商戦までのほんのわずかな間。一月の末日にクラスの友人から急きょ切羽詰まったような声で呼び出されて行ってみれば、ただの合コンだった。人のいいこの友人は、最初は俺の性格を考えて代わりに断ってくれようとしたんだろう。だけどあまりにしつこく責めよられて、とうとう俺を呼び出さざるを得なくなった、というとこだろう。だがいざ行ってみると、俺に声をかけて寄ってくる奴がいる訳でもなく、話の輪に入れない俺は一人黙々と夕飯代わりにテーブルの上にある料理に手を付けるしかなかった。…まぁ人が寄ってこない理由には自覚症状があるので、何とも思わないのだが。無理を言って出てきてもらったのにこれでは、というので友人があれこれ周囲を説得してくれたので、こうして脱出する事ができた。そんな友人を軽く責めるような言葉を吐いてしまう自分がいて、あぁだから人が寄ってこないんだろうな、と他人事のように頭の片隅で考えた。
作品名:発見 作家名:黒猫