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月夜のオオカミ

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初めて、マサオとアヤコは結ばれたのは、アヤコの部屋だった。アヤコの部屋の窓辺には、黄色の花をつけたスイセンの花が飾られていた。
「マサオさん」と囁くようと、マサオは彼女の方を見た。
「何だ?」
「……この街に住むの?」
「いや、……でも分からない。ひょっとしたらそうなるかもしれない。一寸先は闇だからな、どうなることか分からない」と苦笑いした。
「他人事のように言うのね」
「君は僕を非難するためにきたのか?」
「いいえ、ただ懐かしくて、そして……」
「そして……何だ?」
「覆水盆に返らずと言うのは、本当のことかしら?」
「本当さ」
アヤコはくすっと笑った。マサオもつられて笑みを浮かべた。
「昔のようにやり直したいの」
「無理な話だ」
「どうして?」
「僕は昔のことは忘れたい」
「昔は嫌なことだけじゃないわ。良い思い出もたくさんあった。その良い思い出を頼りにやり直すのよ」
「それは無理な話だ。寄りを戻せば、昔の嫌なことも思い出す」
「そうね……でも私はこの時を待っていたの。私は今もあなたを愛しているの」
「よしてくれ!」
「そう大きい声を出さなくとも十分に聞こえるわ」
「悪かったよ」
 二人は黙った。
「ねえ、ビールをもらえないか」とアヤコは言った。
「いいよ」と言うと、マサオはキッチンからビールとグラスを持ってきた。アヤコはそれを受け取ると、グラスに注いだ。
「こうやって、一緒に飲むのは久しぶりね」
「そうだな」
アヤコは飲むと顔が桜色に染まり、色っぽくなる。身も心もまるで花のようだ。
「あなたは寂しくないの?」
「どういう意味だ?」
「私は寂しい」と言ってアヤコはマサオの手を取り、その手を胸の中に入れた。その懐かしい乳房の感触にマサオは驚いた。そしてアヤコが微笑んでいるのに気づくと、慌てて、その手を引っ込めた。
「雪が降ってきたみたい」とアヤコは窓辺に寄った。
 カーテンが閉められていない窓から外が見える。部屋の明かりに照らされた外は、いつの間にか白一色である。
「本当か?」とマサオがアヤコの側に寄ってきた。
「ええ、深々と。これじゃ、かなり積もるわ」
「君は何で来たんだ?」
「車よ」
「車だって?」
「ここに戻ってきてから免許を取ったの」
「早く帰らないと……」
「もう、無理よ。普通のタイヤですもの、こんな雪の中は走れないわ。それにビールもいただいたし」
「じゃ、タクシー呼んでやろう」
 マサオは市内のいくつかタクシー会社に電話したが、いずれも断られた。
「畜生! これだから田舎は嫌だっていうんだ」と電話は投げるように置いた。
「ここに泊めてよ」
「仕方ない、泊めてやるよ」
 ビールを飲み干すと、マサオは奥の部屋に案内した。お休みといって部屋の扉を閉めた。マサオも自分の寝室に行き、すぐに眠りついた。

どれほど時間が経ったのか、マサオは眼を覚ました。窓の方に目をやると、カーテンの隙間から、月明かりが射している。雪はもう止んでいるのであろう。
誰かがそばいることに気づき、目を凝らすと、なんと全裸のアヤコである。アヤコの顔を見て、マサオは驚かずにいられなかった。貞淑な仮面を脱ぎ捨てていて、誘うような色気があふれていたからだ。
アヤコが囁く。
「抱いて」
 マサオは暗示にかけられたようにアヤコを抱いた。薄明りの中で二人の体は一つになった。互いに貪るように求めた。まるで空白の三年の歳月を埋めるかのように。やがて、二つの体が離れた。
「あなたは神様を信じないかもしれないけど、私は信じている。ずっと神様にこの時を願っていた。そしてあなたに会った。願いが通じたと確信した。だから来たの」
「俺は神様なんか信じない。だが、月夜で女がオオカミに変わるという伝説を信じるよ。君の顔がオオカミに見えた。三年間、何があった?」
 アヤコは微笑んだ。
「こうなる運命だったのよ。私たちは。互いに、深く愛するために、神は三年の試練を与えたの。今、それが分かった」
 アヤコの確信めいた言い方に、マサオもそうかと思わざるをえなかった。ちょうど独身生活にも飽きていたので、よりを戻すのも悪くないと思ったのである。
作品名:月夜のオオカミ 作家名:楡井英夫