蜜を運ぶ蝶
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浅木は自分を振り返った。中学時代に始めた部活で選んだのがバレーボールであった。身長が高かったためになんとなく選んだのだ。そのまま高校に推薦で進み、大学も同じ推薦で進学した。すでに高校時代から、部活からは抜け出せない状況になっていた。部活を辞めれば、特待生としての授業料免除などの優遇は受けらなくなる。母子家庭の浅木の家計では、到底、私立の高校の授業料は払える状態ではなかった。せめて高校は卒業したいと思っていた浅木は、辛い練習に耐えた。結果として、浅木はインターハイに行き、大学に進学できた。大学も高校時代と変わりはなかった。勉強はしない。毎日バレーボールとの格闘であった。卒業の後の道も分かっていた。実業団のどこに行けるかということだ。選手として、中途半端な浅木にとって、自分で自分の能力の限界を悟っていた。しかし、就職は一般試験で一流企業に合格できる能力が無いのは、浅木自身が知っていた。結局、バレーボールで入社となった。それは、苛酷であった。浅井たち実業団でバレーボールをやる者は、学ぶためから生きるために変わっていたのだ。床にたたきつけられる肉体、鉄球の様に肉体を痛めつけてくるボール。栄光の舞台に立てる選手には歓喜もあるだろうが、2軍の者には悦びが味わえることは少なかった。やっとレギラーになって、半年で手首を骨折した。その骨折は、バレーボールの練習中でも試合中でもなかった。監督には転倒したと報告したが、事実は先輩から誘われたレスビアンであった。のめり込んだ体は、虐げられた肉体を解放してくれる優しさがあった。レギラーから脱落した浅木には居場所が無かった。それを救ってくれたのはカメラマンの清水亜紀であった。彼女はバレーボールを専門にしてた。彼女の紹介で浅木はモデルの道に進んだ。