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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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命がけのワナ認知症対策

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「オレオレ、オレだよ。
 会社でちょっと緊急の金が必要になってさ。
 悪いんだけど、今から会社の人に金を渡してくれない?」

「ああ、ああ、わかったよ。
 ぜぇんぶ、おじいちゃんに任せな」

電話を切ると、おじいちゃんは息子に振り返った。

「大変じゃ。息子の健人にこれから金を渡さんと!
 このままじゃリストラされてしまうぞ」

「俺ならここにいるけど」

おじいちゃんは自分の間違いを気付くのに小一時間かかった。
その後、おじいちゃんを抜いての家族会議が開かれる。

「……おじいちゃんのことなんだけど」
「あれは完全にボケ入ってるな」
「いつか騙されて、うちの財産がなくなってしまうわ」

恐怖を覚えた家族一同はおじいちゃんを連れてとある町に。

「はて、ここはどこじゃ?」

「おじいちゃんが認知症にならないための町よ。
 1週間後に迎えに来るから、安心してね。
 ここに住んでいるだけで、認知症予防になるの」

「それで、飯はまだかの?」
「さっき食べたでしょっ!」

おじいちゃんを『ワナの町』に残して家族はUターン。
車中では会話が交わされていた。

「いいのか? おじいちゃん死ぬかもしれないぜ」

「死んだらそれで手間が省けて結構。
 生きていれば、心強いサギへの防犯になるさ」

車はワナの町が見えないところまで走り去ってしまった。
取り残されたおじいちゃんは一歩踏み出した。

「はてさて、どうしようかのぅ」

その瞬間、足元に這っていたワイヤーをひっかける。


バチンッ!!


地面に土色で見えにくくされていたトラバサミが作動した。
おじいちゃんの履いていた靴先数ミリを食いちぎる。

「ひょ、ひょえええ……」

怖くなって引き返そうとしたが、
ワナの町の入り口の金網に伸ばした手をひっこめた。

ヂヂッ……バチバチッ……。

風の音にかき消されそうなほど小さな音。
高圧電流が金網に流れている。触れれば、即感電。

「なんじゃなんじゃこの町は……!」

見れば町には、ワナにかかった死体がごろごろ転がっている。

ここはワナの町。
人の心理を極限まで追い詰める町。
わずかでも注意を怠った人間に待つのは、死。

けれど、ここで生き残った者は
人間の心理や騙し合いに対する恐ろしいほどの力がつくという。


「孫の顔もまだ見れてないのに、死んでたまるか!」

おじいちゃんの目に、かつて戦争で培われた戦士の火がともった。

 ・
 ・
 ・

1週間後、ダメもとで家族はやってきた。

「どうせ生きているわけないよ。
 あんなじじいよりもやるべきことがあるだろ」

「だとしても、死体の処理には家族の同意が必要なの。
 この町には来ないとダメなのよ」

ワナの町につくと、人影が見えた。
家族はあまりの驚きに言葉をなくした。

「うそ……このワナだらけの町で1週間過ごしたの……?」

おじいちゃんは慎重に一歩一歩進んではワナの気配を探る。
ときに砂煙を巻き上げてワイヤーの位置をたしかめ、
ときに前方に物を投げ込んでワナを作動させる。

「お、おじいちゃん!」

「おお、帰って来たか」

1週間前とはまるで別人のような輝きになっていた。

「おじいちゃん、すごいじゃない。
 この町で生き抜くなんてっ!」

「ああ、お前さんたちには感謝しているよ。
 この町で過ごしてからというもの、
 人間の心理や洞察力が大いに養われたよ」

ワナは人間が気付きにくいような場所に仕掛ける。
それを見切るのは、まさに人間の心理戦に近いものがある。

「すごいじゃない、おじいちゃん!
 それでね、その力を認めたうえでお願いがあるの」

「お願い? なんじゃ?」

「実は……おじいちゃんがワナの町にいる間に、
 私たち家族が投資サギにあってしまったの。
 それも100万円……」

「100万円!? うちの財産の半分じゃないかっ」

「それでね、おじいちゃんなら取り返せる?
 ワナの町で人間心理に詳しくなったんでしょ?
 私たちを騙した犯人を、逆にだまして取り返してほしいの」

「ああ、もちろんじゃ。ワシにまかせておけ」

おじいちゃんは迷いなく答えた。
その頼りがいたるや、家族一同はほっと安心した。

「しかし、相手を騙すにも何かと準備がいる。
 そこで100万円を貸してくれんか?
 それで必ず相手から金を取り戻して来よう」

「ええ、わかったわ」

家族は安心しておじいちゃんに100万円を渡した。




数日後、おじいちゃんは手に入れた合計200万円で
超高級老人ホームで悠々自適な余生を過ごした。