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レイドリフト・ドラゴンメイド 第15話 強さと運命

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 眠る異星人は、腹を大きく引き裂かれていた。

 そのベッドのそばに、一人の真っ白な異星人が立っている。
 身長は2メートル弱。2本足で立つ、地球人に近い姿勢。
 だが首は無く、肩に目が、その間に鼻と口ばしがある胴体。
 両腕は大きな羽がついていて、それが今、患者の前で目にもとまらぬ速さ動いている。
 同時に、隣にいた医師が持つトレーから、メスや薬品など、医療機器が次々に消えたり現れたりする。
 かと思えば、ジャグリングの様に周りを飛び交うハサミもある。
 見る見るうちに切り裂かれた異星人の腹が、閉じていく。
 信じられないスピードだ。

 この速さの秘密は、翼異星人の白さと直結する。
 宇宙の、ある領域でしか採取できない特殊物質・タキオン。
 光粒子は秒速30万キロメートルで真空を突き進む。
 タキオンとは、光量子よりも早く運動する粒子で、地球では異能力者発生現象以前には確認されなかった粒子だ。

『ワタレ-星人、ですか? 』
 好奇心を発揮したカーリの言うとおりだった。
 彼らの体には、物質を曲げると内部の次元も曲げる、ワラレウムという特殊物質でできた、ワタレウム導管という器官がある。
 それは血管の様に体中を巡り、タキオンを導く。
 ワタレ-星人は、タキオンを全身に駆け巡らせることで、自分と外の世界の物理法則を完全に切り離すことができる。
 その効果は、使う者に通常時間とは違う時間を与え、何百光年も離れた恒星間の旅も、数日で完了させる。
 そうやって、渡り鳥の様に宇宙を旅する種族なのだ。

 達美が説明する。
「3年A組学級委員長。ブライセス。黒髪ストレートのお姉さまなら覚えてるかしら?
 20万歳のベテラン医師だけど、あまり現場にいすぎても技術や知識が古くなるから、10年間は様々な異能力者がいるところで勉強するために、魔術学園にやって来たの」
 カーリの顔がうらやましさでゆがむ。
 達美はその表情を見て、これまでの仕返しに利用できると考えた。
「魔術学園には、そういう異星人がやって来るの。
 普段は地球人に擬態したり、同じようなサイズに変わる面倒はあるけど。
 高校の後に大学へ進むもよし。他の大規模な、それこそ宇宙規模の学校へ行く人もいるよ」
 達美のもくろみは成功した。
「ボルケーナも、以前は働いていたけど、高校から入って大学に進んで、そして仕事に戻ったの」

 ブライセスの隣に、金色の髪を頭の後ろできつく団子にしている、小柄な少女が駆けこんだ。
 そして、突き出した白い手から、赤いガスに見える可能性指向空間を生み出し、傷を覆う。
【科学部部長。ティッシー・泉井。
 能力はスカラー・ブースター。
 どんな可能性も100%にできるすぐれものよ。
 今は、けが人の治療成功率を、100%にしてもらってる】
 智慧のテレパシーがそう言い終える前に、患者の傷は完全にふさがった。
 ブライセスはティッシーを、これからは両手で抱え上げて移動することにしたようだ。
 次の患者へ向かう。

【シエロ! カーリ! てめえら! 】
 突然、テレパシーに割り込んでくる声があった。
 男の声だ。
【てめえらもボルケーナ先輩に泣きつくパターンか!? 情けねえな】
 割り込んだ声は、達美専用車にもスピーカー越しに伝わっている。
 シエロが答える。
 さすがに普段より上ずった声だが、わずかに威厳が残っていた。
『単なる、真脇 達美の習性だ』
【へえ、それは命拾いしたな】
 割り込んだ男の声には、明らかに侮蔑の響きがあった。
 超常の視線が、強制的にさらわれる。
 連れて行かれた先は、意外と近く。
 フセン市役所の扉のすぐ内側だった。
 視線の中に、黒い肌と生徒会の中で最も低い身長を持つ体育委員長、キャロライン・レゴレッタがいる。
 けが人がいれば、ここから彼女の瞬間移動で運び込むのだろう。
 2人の男子生徒がいる。
 1人はジル。1年A組の学級委員長。
 もう1人は優男の予知能力者、生徒会書記の黒木 一磨だった。
 ただし彼の予知能力と言えど、状況が目まぐるしく変わる今では、数秒先のことしかわからない。
 だったら、ここでキャロの手伝いを。という事だろう。

【俺だよ! 熊 明明だよ! 】
『フガフガ! 』
 ユウ メイメイ、と名乗ったテレパシーの主。
 その後にはなぜか、口に何か加えているような聞き取りにくい声が入った。
 テレパシーに、プロフィール画像に使われるような小さな顔写真、のようなものが送られてきた。
 アジア系で若若しい顔。
 金色の髪だが、これは染めた物だ。
 短く刈り込み、エッジを効かせて上にはね上げている。
 その耳には赤、青、黄、金など、様々な貴金属や宝石のピアスが並ぶ。
 がっちりした顔立ちと相まって、チンピラどころではない、本物の猛獣のような雰囲気。
 さっそく達美が説明する。
「2年B組学級委員長 。熊 明明(ユウ メイメイ)。
 14歳でマサチューセッツ工科大学……地球で最高レベルの科学者を何人も輩出している大学なの。そこを14歳で卒業したすごい発明家にして、異能アイテムのコレクターなの。
 能力は、どんな異能力にも対応できる力。
 それと、集めた異能アイテムを使うこと。
 今使っているのは、テレパシーを使える青いピアス。口にくわえているのは、傷を治すことができるブローチ。
 でも、何で口にくわえてるの? 」
 広大な異能力データベースを持つ達美にはわかる。
 ブローチは、本来手に持って使う物のはずだ。
 そして、メイメイの足元には、やたら生々しい2本の義手。彼には両腕がなかった。

【ユウ! 何やってるのよ! 】
 智慧のテレパシーが飛んできた。
 その声に、恐怖と驚きが満ちている。
【見りゃわかるだろ! 火を見て、ファントムペインを感じてるんだよ!! 】
『フガフガ』
 達美は言われて気付いた。そして、ぎょっとした。
 メイメイの額には、気味が悪いほど汗が浮かんでいる。
 視線は痛みのためか、しっかり定まっていない。
 それでも、燃え続ける街を見つめている。

 市役所のまわりは、大規模な火災でも火が追い付かないよう、空地になっている。
 その設計は見事に成功していた。
 空地には、パーティーの残骸が、そこかしこに散らばっている。
 カラフルなテントは、サーカスが行われるはずだった。だが、今は空っぽ。
 壁となって並んでいた花が、無残に倒れて折れ曲がっていた。
 その向こう。街には送電線が焼け落ちたのか、電気の明かりは全くない。
 街の建物は夜闇の中に溶け込み、火に照らされうっすら見えるだけだ。
 フセン市役所は自家発電装置があり、それによって電気が使える。
 
 メイメイは説明を続ける。
【俺の腕は、2か月前にチェ連の攻撃を受けて、燃えちまった。
 智慧の足もその時だ。
 それ以来、火を見ると失ったはずの腕が、失った時と同じ熱さと痛みを感じるようになった。
 それがファントムペイン。脳には体の各部分を動かす、部分がある。それは、担当する部分を失っても消えることはない。
 つまりだ、本物の腕は無くても脳が腕を感じているなら、腕でしか使えないアイテムも使えるんじゃないか?】