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カフェ・テクタ2 連続嗜虐

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カフェテクタ

第2章

 アスファルトを破壊された路は、皮膚を剥ぎとられた瀕死のクジラのようだった。傾いた電柱と電柱の間で、電線が弧を描いている。凌辱された道路の上で人工(にんく)たちはうなだれながら、水を散布し始めた。
 先ほどこっちを凝視していた若い男は見あたらない。琥珀めいた目で、熱っぽく見ていた。甘い顔立ち、初々しさのある男だった。何かを知っているはずだ。キャデラックのほうに向かって歩き、姿を消した。どこに行った?
 エマは妖しいコーケイジア色の粒が詰まった1パイントの分厚いガラス瓶をテーブルの上に置いて、微笑みを浮かべていた。
「よければ、ためしに飲んでください」
 と言った。
「毒が入っているのでは?」
 俺は完全に女を疑っていた。水族館の不審な事件。女が男の息の根を止めるほとの力で殴打することは、実際は簡単ではない。ドラマや映画と現実は違う。その上、エマは妊婦だ。殺ったとすれば、毒殺あたりなのではないか。この華奢な体では、大の男を絞殺するのも刺殺するのも不可能だ。報道と事実がなんらかの理由で異なることもある。本当は、エマは毒殺によって、奸賊な男を殺したのではないか。
 根拠はないが、なんとなくそう考えているときに、彼女が厚さ16ミリ以上はあるガラスの瓶を鞄から取り出したのだった。
「毒ではありません。珈琲です」
「珈琲なら、うちでは豆の輸入からやっている。ひとつひとつハンドピックして、生臭さが消えるまで煎って深みを出しているし」
 唾を吐き捨てるように言った。
「客を馬鹿にするわけにはいかない。うちは珈琲には誇りを持っている。インスタントなど、もってのほかだ」
 すると、エマはかっと瞳に怒りを滾らせた。
「なぜ、そう言い切れるの? あなたは世界の何を知っているの?」
 深淵な重みを宿す。
「肉厚の、殻をぶち破る、生命……」
 どっと辺りが暗くなった。カフェの隅々、窓の外、エマが腰掛ける椅子、すべてが暗がりに包まれ、中心に向かって渦を巻いた。銀河色のあの渦だった。エマの目がすごく硬く光っていた。正義も悪も柔和さも体験も、何者もその意思を覆すことができないあの光だった。
「ダイヤモンドを粉々に砕いても、それはダイヤだわ。凍らせても、火であぶっても、はりつけにしても、罪を背負わせても、唾を吐いても、泥だらけにしても、裏切っても、愛さなくても、ダイヤだわ。人間がその価値をあらゆる手段で徹底的に蹴落とそうとしたとしても、ダイヤはダイヤのままだわ」
 自分の指が強張り青ざめるのがわかった。皮を剥がされ、胸ぐらをスコップで掘り下げられて、汚らしい内臓をさらされた気分になった。
 エマは凶器にでもなりそうな重厚な瓶をテーブルの上にどすりと置いて、たちあがった。瓶の中のインスタントの珈琲の粉は、青みを帯びていた。
 チョコレートヒルに似た五ヶ月ほどの腹を静かに撫でて、窓の外の木漏れ日を眺め、工事をしている男たちを見つけると、探すように目を細めた。すぐに、隠れ、柱のそばまで動いた。
 それから、ひととき、じっとしたあと、静かに歌った。夜が明ける、明ける、ああ明ける。
「‥‥‥その珈琲は、カフェ・テクタといいます。ある砂漠の中のオアシスで作られてるんです。もしあなたが気に入って、お店で出す気になったら、連絡をください」
 俺は黙って自分の尻を置いている高椅子を回転させた。白黒模様の床が、錯覚によって色味を帯びる。