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からっ風と、繭の郷の子守唄 第101話~105話

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 「別荘地のねぎなら安心どす。それなら、ぜひ行ってみたいわぁ」

 「ところがこの時期になると、別荘地は閑散とする。
 昼間でもほとんど人は通らない。
 どうする、それでも君は、勇気を出して行ってみるかい?」

 「なんだかなぁ。説明自体が、ちょっぴり詐欺に近いわな。
 大丈夫どす。、行きましょう。
 温泉のおかげで、ポカポカと全身が火照っとるんだもの。
 今なら、ちょうどええかもしれません」

 赤城山は、昭和58年に開催された「あかぎ国体」を機に、
観光資源として、群馬県から見直されている。
同時に、土地開発も波に乗って来た。
山麓のあちこちで、多くの別荘地の開発がはじまる。
バブル景気が全盛の昭和61年から平成3年にかけて、さらに多くの
不動産業者が、赤城の広大な裾野に目をつけた。
次々に、無軌道ともいえる乱開発を繰り返す。
しかし突然たってきたバブル景気の崩壊が、こうした目論見を
あっというまに崩壊させてしまう。

 別荘地ブームが、簡単に終焉していく。
開発中と分譲中のおおくの別荘地が、中途半端な形のまま頓挫してしまう。
山麓のあちこちに、そうした遺構がいくつも残る。
康平が思い出した見晴らし台も、そうした遺構のひとつといえる

 「ホンマ・・・・絶景どすなぁ。
 こうしてここへ立つと、関東平野の広大さがわかります」

 見晴台といっても、ただの2階建てのコンクリート製の建物にすぎない。
1階のむき出し部分に、数台の自販機が置かれている。
2階には何もない。空間がただぽっかりとひろがっているだけだ。
屋上へ行くためには、さらにそこから螺旋階段を登る。
見晴らし台といっても、何もない。
だが康平が言うように、眺望には目を見張るものがある。

 目の前がすべて開けているだけだ。
赤城の樹海はこの建物の背中から、峰にむかって続いて行く。
標高にして400mほどの高さになるここからは、関東平野のすべてが見える。
足元にある、群馬県内の主な市街地はもちろんのこと、関東平野を横切る
利根川の先に、埼玉と東京のまばゆい夜景を見ることが出来る。

 「ここが、関東平野の行き止まりで、最北端ということが
 ホントに実感できます。
 もったおらんわね、康平くん。
 恋人同士なら、絶好の告白ポイントにもなるでしょうねぇ。
 肩を寄せ合って、ロマンチックな夜になるでしょう。
 こうして見つめとるだけでも、なんだか康平くんに寄り添いたくなるから
 不思議どす。
 女はねぇ・・・・夜景には、なんでかとても弱いのよ・・・・
 まいりましたなぁ。こんな景色を目の前に見せられたら、
 いつのまにか現実を忘れて、あたしの心が、
 (あなたに)メロメロになってしまいそうどす・・・うふっ」

(106)へつづく