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たららんち
たららんち
novelistID. 53487
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あの綿毛のように

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はじまり


 帰りのショートホームルームが始まった。その途端に、先生の目が私を見る。
 「吉岡、後で職員室これるか?」
 ちらっと私が佐々木さんの方を見ると、彼女は眉毛をあげてにやりとした。
 実は、私と佐々木さんは昼休みからの授業、つまり五時間目と六時間目を一緒にサボって屋上へ行っていたのだ。
 といっても、示し合わせて屋上へ行ったわけではなく、たまたまサボった時間と行った場所が同じだったにすぎない。
 普段、あまり会話をしていない私と佐々木さんは、性格のタイプが違うのに意外と話が合った。
 私は、自分で言うのもなんだが真面目だ。髪の毛は結構長いけれど、染めたこともないし、授業をサボったことなんてついさっきまでなかった。宿題だって欠かさずやっている。中学の時には部長もやったし、忙しい両親の代わりに、弟の面倒を見ている。その弟も、今年で小学校最後の六年生だ。
 対して佐々木さんは、ちょくちょく授業をサボったり、テストは赤点をぽんぽんとったりするような人だ。その度に、彼女がころころと笑い、彼女の笑顔に似合うセミロングの少し茶色い髪の毛が揺れるのを遠くから見ていた。
 こんな二人が同時にサボったら、まず先に目がつくのは私だ。
 教師にしてみれば、佐々木さんがサボるのは日常茶飯事、日ごろ真面目な私がサボるのは異常事態、ということなんだろう。
 ショートホームルームが終わった後、私は特に用事もないのでおとなしく職員室に出向いた。職員室では何人もの教師たちが慌ただしくプリントを整理したり、コーヒーを飲んだり、生徒の質問に答えたりしていた。
 その中で一人、私を見つけて手招きをする先生がいた。私の担任だ。先生の席は窓の真横。だからと言って、窓際族とかいうのではなく、他の教師からも頼りにされているらしい。
 私は先生の所までとことこと歩いて行った。途中、急いでいるほかの先生に当たりそうになった。
 「今日はどうしたんだ」
 開口一番、これだ。
 「別に、どうもしないですよ。少し、気分が悪くて」
 教師と生徒は、決して相いれないものだと私は思う。
 中には例外もいるけれど、大抵はどこかにずれが生じる。
 それは生まれた時代の所為だったり、単純に教師としての質が悪い所為だったり、立場、つまり大人と、高校生という準大人の違いの所為だったりする。
 今回は、立場の所為だろう。
 先生としては熱心に、生徒のことを考えて指導してくれているのがわかる。わかるからこそ、やるせない。その熱心なまなざしはどこまでも方向音痴で、私たちが手をさし伸ばしても届かないし、声も聞こえない。だから、先生はまたどこか遠くへ行ってしまう。
 窓から外を見ると、タンポポの綿毛が自由に空を飛んでいた。
 いや、自由とは違うだろうか。彼らは風がないとどこにも行けないし、方向も自分で決められない。人間の目から見ると一見気楽そうに見えても、その実彼らも大変なのだ。
 「聞いてるのか?」
 「聞いてます、聞いてます」
 ありきたりな応答をして、私はまたちらりと窓の外を見た。綿毛は風に乗ってどこかへ行ってしまっていた。
 少しがっかりして先生を見ると、その視線は私の顔をじっと見ていたので、思わずぎょっとした。
 「先生、心配しなくても、私不良になったりしませんよ」
 早く話が終わらないかな、と思いながらもそういった。すると、先生は「そういうんじゃなくてだなぁ……」と煮え切らない感じでいった。それからしばらくまた先生は黙っていたが、やがて「うん、まぁ、いい。大丈夫だろう。お前ならな。しっかりものだし」と納得するようにうなずいた。
 それでようやく無罪放免となり、私は職員室から帰還することになった。
 けれど、先生はやはりわからないのだろう。私はしっかりものでもないし、実のところは真面目でもない。誰かがなにかをやらなくちゃいけないところで、たまたま私しかいなかったようなもので、私はもし、今すぐに何もかもやめていいぞと言われれば喜んで体をベッドに預けるだろう。
 ――せっかく、屋上でいい気分になれてたのに。
 職員室の扉まで向かいながら思う。本当に、あの時は不思議だった。佐々木さんと、不思議に意気投合し、いつもと違う場所、時間の所為もあって気分が高まっていたのだろうか。さわやかな風と、暖かい日の光が、確かにさっきまでの私の周りには漂っていたのに……。
 職員室の扉を開けて、失礼しましたと一礼をした。そして、扉を閉めて振り向いたときに、私は腰が抜けそうになった。
 「吉岡」
 変な悲鳴をあげたような気がする。職員室の中で先生たちがこちらを見ているのが目に見えるようだった。
 「近いよ!」
 ようやくそれだけ言うと、彼女はころころと笑った。
 「吉岡、今日家に行ってもいい?」
 「今日?」
 随分と急な話だ。
 「なにかあるの?」
 「別になにもないけど、行きたいの」
 「まぁ、別に大丈夫だよ」
 「よかった!」
 それじゃ、さっそく行こう。と彼女は職員室前に置いてあった私のカバンを持ち上げて、廊下を歩きだした。私が慌てて後を追って隣に並ぶと、彼女は持っていたカバンを私に差し出した。

作品名:あの綿毛のように 作家名:たららんち