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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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不自由タイムワープでおやすみなさい

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待っていましたとばかりに、ぐらりと睡魔がやってくる。
いやだ……いやだ……あんな未来だけは……。

※ ※ ※

目を覚ますと、俺はどこかの縁側に座っていた。

「あら、おじいさん。起きていたんですか?」

おじいさん?
今の俺はじじいなのか?

それじゃここは……未来。

「歳をとると、つい眠ってしまいますねぇ。
 時間もあっという間に流れてしまう」

「そう……だな」

声が出る!

俺は慌てて自分の体をチェックすると、
生身の体にゴツい機械がいくつも装着されていた。

そうか……未来には体を動かせる機械があるのか……!

「いろいろありましたねぇ」

それよりあんた誰だよ、と言いたかったが
"長年連れ添った夫婦"という空気を感じたので、聞くのは控えた。

「結婚してからもう40年ですかねぇ。早いものです。
 今でも、あの事故のことは覚えていますよ」


事故……。

おそらく、俺の体がこんなことになった事故だろう。
それより先を聞くのは怖かった。

でも、勇気を出して聞いた。
俺の未来の末路を。

「わしは……なんで、こんな体になったんじゃ……?」

「忘れたんですか? 私をかばってひかれたんですよ。
 何年も眠ってやっと目が覚めた時は嬉しかったです」

「ああ……」

もしかして、俺を介護していたおばさんは、この人か。
結婚生活の年数から逆算しても納得する。

「でもね、おじいさん。
 私は後悔もしているんですよ」

「え……?」

「おじいさんが眠っている間、ずっと後悔していました。
 もしこのまま目が覚めなかったら
 私の気持ちを伝えることができなくなるって」

おばあさん……というか、俺の未来のパートナーは続ける。

「車にひかれるあの日よりずっと前から、
 本当はおじいさんのことがずっと好きだったんですよ」

「年寄りに告白されても嬉しくないな」

「あら、おじいさん。人口声帯の不具合かしら?
 なにか言いましたか?」

俺は縁側でおばあさんと静かに笑った。
やがて眠りについた。

※ ※ ※


「信じられないっ! もう信じられない!
 私との約束をすっぽかして、こんなところにいるなんて!」

女は泣きながらキャバクラを出て行った。
この光景、覚えがある。

「もう私たち終わりね! さようなら!」

去り際にそう言い残して。
この時代に来たのはこれで二度目だ。

「待ってくれ!」

俺は腕を絡めるキャバ嬢を振り払い、女を追った。

もう一度、この時代に連れてこられたことに
なにか運命的なものを感じたのかもしれない。

女は外で涙でぐちゃぐちゃの顔のままタクシーを探していた。
俺が追ってきたのをわかるとヒステリックに泣きわめく。

「なによ! 今さらよりを戻す気なんてないからね!
 あんたなんか大っ嫌い! あっち行って!」

「俺がいったい何をしたんだよ」

「そんなことも覚えてないの!?
 水族館に連れて行ってくれるって約束したじゃない!
 私、約束をした子供の頃からずっと……楽しみにしてたのに!」

そういえば、女の服装はこじゃれていた。
今日はデートで気合を入れてきたんだろう。

かたや、俺はスーツ姿。

察するに会社の接待が入ったとかなんだろう。

「私たちの関係ももうおしまいね!
 長い付き合いだったけど、もう二度と会わないから!」

「おいタクシーは……」

「歩いて帰るっ!!」

女は怒りで周りが見えなくなっていた。
とにかく俺から逃げようと道路を横断したそのとき。

横から迫ってくる自動車に気付きもしなかった。

「危ないっ!!」

考えるより先に体が動いていた。
はね飛ばされた感触と、体が宙に舞う感覚が同時に襲う。

地面に叩きつけられると、体はもう動かせなくなっていた。

ああ、そうか……これが……。
おばあさんの言っていた……事故か……。

こんなに近い未来だったなんて……。

「うそ……!? そんな……!?」

女の声がする。
すがるようで、祈るような声。

この人が……俺を介護するおばさんで……。
そして、俺と40年連れ添う女性なのか……。


「目を開けてよ! ヤス君!!」


俺をそう呼ぶ人は、たった1人しかいなかった。
そのまま静かに眠りについた。

※ ※ ※

「間島ぁーー。いないのか、間島ぁーー」

担任の先生が俺の苗字を呼ぶ声で目が覚めた。

「あっ、クマ先生……」

「お前な、1時間目から居眠りって
 そんなに先生の授業が退屈だったのかぁ?」

「はい、それはもう」

「おまっ……」

教室はどっと笑いに包まれた。
ここは見覚えがある。

小学1年生のころの教室だ。
今までで一番過去にジャンプしたみたいだ。

「ヤス君って、本当に面白いね。あはははっ」

前の席にいる幼馴染のみちるが振り返る。
その顔には、成長しても変わらない面影があった。

「なぁ、みちる」

「なに? ヤス君」

「いつかさ、大きくなったら二人でおおうみ水族館へ行こう」

「えっ……あ、えと、あのっ……や、ヤス君……」

みちるは顔が真っ赤になってうつむいた。


「間島、お前なに朝から口説いてるんだ?
 本当にしょうがない奴だなぁ」

クマ先生はあきれるように言って授業を始めた。