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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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不自由タイムワープでおやすみなさい

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どこだここは。
俺はちゃんとベッドで寝ていたはずだ。

いや、でも見覚えがある。
ここはたしか……。

「はい、それじゃあ算数のテストはじめてください」

クマ先生……。
たしか、小学1・2年生のときの担任。

間違いない、ここは小学2年生のときの俺の教室。

 ・
 ・
 ・

「すっごーーい! ヤス君、満点だね!」

「あ、うん……。親がさ、満点取ったら
 水族館に連れて行くって約束してくれて
 めっちゃ勉強がんばったんだ」

「それってもしかして、おおうみ水族館!?
 私たちの約束の場所と同じだね!」

「あ、ああ……そうだったっけね」

全然わからないけど、俺は話を合わせた。

大人になっている俺に算数の問題なんて簡単すぎる。
それに、幼馴染のみちるに褒められてもうれしくない。

もっとこう……大人の女性にちやほやされたい。

じゃなくて。
なに小学生ライフを楽しんでるんだ、俺。

学校から帰った後も、西暦などをチェックする。
今は間違いなく俺が生きていた過去だと実感した。

夢にしても緻密すぎるだろ。

「……たしか昨日は、しこたま飲んで、眠って……」

記憶をいくらたどっても、
過去に飛べるような装置を使った記憶はない。

俺は普通に布団に入り、そのまま寝て、過去に飛んだ。
いったいどうなってる。

「ヤス、もう寝なさい。いつまで寝てるの」

「まだ20時だよ」

「子供が起きてる時間じゃありませんっ」

そうだった。
今の俺は小学2年生だった。

酒も飲んでないのに、こんな時間に寝られるか。
と、思っていたけれどあっさり眠りに落ちた。若さってすごい。

※ ※ ※

「ねぇーーえ、もっと遊んでってよぉ」

眠りから覚めると、若い女が腕を絡ませていた。

「ここは……キャバクラ?」

「なぁーに? もしかして、お酒飲みすぎて記憶喪失ぅ?」

「か、鏡もってる?」

キャバ嬢に鏡を借りて自分の顔をチェックする。
そこに映っているのはもう小学2年生にあどけない顔じゃない。

現実の俺。30代前半の俺が映っている。

「戻ってきたんだ……現実に」

スマホの電源を入れて時間と日付を確認する。
正しくは現実に戻っていなかった。

ここは俺がいた現実から2年先の日付になっている。
過去にいった次は、プチ未来に来てしまっていた。

「寝たら……俺は過去か未来にいくのか……!?」

「なぁーにわけわかんないこと言ってるのぉ?
 ねぇ、もっとお酒飲みましょうよぉ」

「あ、うん……」

押し切られる形で酒をどんどん進めていく。
すると、キャバクラの扉が乱暴に開けられ、血相変えた女が入って来た。

「ここにいたのね……!!」

誰だ?

「信じられないっ! もう信じられない!
 私との約束をすっぽかして、こんなところにいるなんて!」

俺に詰め寄られても身に覚えなんてない。
というか、あんた誰だよ。

「もう私たち終わりね! さようなら!」

女の物言い方からして、おそらく今の彼女なんだろう。
まあ、でも今の俺には関係ない。

多少の思い出があれば話は別だけど
全然知らない人と別れたところで、別に痛くもない。

「さあ、どんどん飲むぞーー!」

俺はたくさん酒を飲んで、泥のように眠った。

※ ※ ※

眠りから覚めると、体の違和感をまず感じた。

動こうとしても体が動かない。声も出せない。
動かせるのはせいぜい眼球だけだ。

こんな過去、今までになかった。

ということは……ここは未来……?

「……気が付きましたか?」

誰だこのおばさん。
親じゃない。何がどうなってる。

必死に目を動かしてあたりの様子を探る。
どうやらここは病院らしい。
そして、俺は病院のベッドに寝かしつけられている。

「さぁ、食事が届きましたよ。
 口を開けてください」

ちがう。食べたいのはそれじゃない。
俺が食べたいのは……そっちのお豆腐なんだ……。

介護するおばさんは、野菜を俺の口に放り込む。

でも、かむ力も口を閉める力もない俺は
くちゃくちゃと音を立てながらぼろぼろこぼす。


なさけない。
みっともない。
どうしようもない。


みじめな気持ちがどんどんあふれて涙がこぼれた。

「あらあら、そんなにおいしかったんですか?」

ちがうよ、おばさん。
悲しいんだ、自分の未来がこんなになるなんて。

体の感覚はほぼない。
動かせるのは眼球だけの状態で生かされている。
殺してくれと伝えることもできない。

こんな未来が俺に待っているなんて……。

俺がなにをしたっていうんだ。
どうしてこんな未来にならなくちゃならないんだ。

泣き疲れた俺は、静かに眠りについた。

※ ※ ※

目を覚ますと、自分の部屋だった。
すぐにスマホで今の時代を確認する。

「現実だ……! 現実に戻ってきたんだ……!」

全身不随の恐怖から解放された喜びに震えた。

ものすごい数のある過去。
まだ信じられないほど先のある未来。

その中からピンポイントで現実に戻れるなんて奇跡だろう。
思い出されるのは、寝る前の植物人間になっていた自分。

あんな日々にはもう戻らない。
俺は病院に向かった。

「え? どこでも寝てしまうから薬が欲しい?」

「はい、仕事中でも寝てしまって困ってるんです。
 このままでは日常生活も送れません」

「眠くならない薬、出しておきますね」

こんなやり取りをいくつもの病院で行った。
戦利品としてものすごい数の睡眠阻害剤を手に入れた。

「もう寝てたまるか……!」

寝てしまえば、俺の人生のどこかの時代に飛んでしまう。
過去ならまだしも、未来に行ってしまえば……。

俺は眠らない限り、行かされるだけの植物生活を味わわされる。
それはどんな拷問にも勝る恐怖だ。

過去を変えれば、未来も変わるなんて聞いたことがある。

でも、それを信じて動くリスクが大きすぎる。
俺ができるのは未来を変えることじゃなくて
あんな恐怖の未来にならないよう逃げきることだけだ。

ピーーっ。

『留守電が1件です』

『間島か? 久しぶり。
 稲峰小学校の同窓会やるんだけど来ないか?
 ツヨシも、みちるちゃんも来るってよ』

『留守電は以上です』

「……誰が行くか」

この先、何があるかわからない。
同窓会に参加したとき、たまたまシャンデリアに押しつぶされる、とか。
行く途中で事故に巻き込まれたりする可能性だってある。

あんな未来になるだけの火種はいくらだって。

この部屋の中で、眠らずにずっと耐えていれば
あんな未来になることはない。絶対に。

2日が過ぎ、3日が過ぎ、4日が過ぎ……。

睡眠阻害剤を切れ目なく服用し、俺は現実にとどまり続けた。
ネット通販で外出をとにかく控えて生活した。

けれど、その生活にも隙はある。

「薬が……!」

睡眠阻害剤が底をついてしまった。
これがないと、とても起きていられない。

俺は慌てて病院へと駆け込んだ。

「では、こちらの待合室でお待ちください」
「ま、待ってくれ! 今すぐ必要なんだ!」

「順番は守っていただかないと」
「くそっ!」

俺は待合室のベンチに腰をかけた。