【創作】「幸運の女神」
『こうして、友人は私の元を去った。けれど、私は、いつか彼が気紛れに戻ってくることを信じているし、その時に彼を失望させないよう、領主として相応しい振る舞いをしてきたと自負している。
もし、これを読む者が、我が友人に出会えたのなら、伝えてほしい。
「馬鹿にするな、礼くらい言わせろ」と。』
手記は、そこで終わっていた。
ルシアナは胸を押さえ、深く息を吸い込む。
自分の目が信じられなかった。こんな荒唐無稽なことが、実際にあるのだろうか。チェンバレンが心を病んで、幻覚を見たのだと言われた方が納得できる。
だが、ルシアナの中に、否定しきれない何かがあった。
服の下に隠された痣。この痣は、バートラム・チェンバレンと同じもの・・・・・・。
ふと、背後に気配を感じた。慌てて本を閉じたルシアナの耳に、呆れたような囁き声が聞こえる。
「・・・・・・本当に、面倒くさいお方ですねえ」
心臓が跳ね上がり、ルシアナは短い悲鳴を上げた。おそるおそる振り向いた視線の先に、片眼鏡の青年が立っている。こめかみから生える二本の角は、奇妙に曲がって
「お久しぶりです、我が君。お礼を言われに参りましたよ」
終わり
作品名:【創作】「幸運の女神」 作家名:シャオ