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【創作】「幸運の女神」

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「幸運の女神」


剣戟の甲高い音が響き渡った。
二人の男が剣を交え、身をかわし、切っ先を繰り出す。白銀の一閃が一方の袖を引き裂き、血が吹き出した。瞬間、介添え人の声が響く。

『勝負あった!』

だが、かき消すように「まだだ!」と叫び、勝負の続行を望む男。容赦のない煌めきが、今度は手首ごと切り落とした。
獣のような咆哮をあげ、のたうち回る男に、相手は涼しい顔で言い渡す。

『次は、貴殿の首を頂く』

アンバス公爵、バートラム・チェンバレン。ギルベス三世の妾腹として生まれ、血に飢えた暴君と恐れられた貴族は、何故「賢王」と讃えられたラーズ六世の重鎮となったのか。



「・・・・・・少し芝居がかりすぎだったかな?」

カスケード教授は、老眼鏡の向こうから穏やかな微笑みを向ける。学生服に身を包んだルシアナは、首を傾げて手元の原稿に目を落とした。

「先生がお書きになっているのは、ラーズ六世の生涯についてですよね?」
「ああ、もちろん。だが、アンバス公爵の存在を無視するわけにはいかないよ。彼は十二歳で即位したラーズ六世にとって、父親代わりであったからね。公爵が八十二歳でこの世を去った時、王は子供のように泣き叫んだそうだ」

目の前に座る女学生に、教授は熱弁を振るう。礼儀正しく、辛抱強く話を聞いてくれる相手など、ルシアナ以外には執筆用のパソコンくらいのものだ。

「若い頃の公爵には、冷酷で残忍という評価がついて回る。この時代の貴族はやたら血気盛んでね。名誉を傷つけられたといっては決闘を申し込んでいた。チェンバレンは、決闘の代理人として暴れ回っていたんだよ。まあ、一応、彼の親族の代理としてね。だが、ある時期から慈悲深く聡明な城主として、民衆が慕うようになったんだ。彼の転身が、後にラーズ六世という賢王を生み出している」
「一体、何があったのでしょうね? その、バートラム・チェンバレンに」
「そうだね。それにはまず、彼の前半生を理解する必要があるだろう。ちょっと待ってくれたまえ」

教授は嬉々として本棚の前に立つ。ずらりと並んだ背表紙に、素早く視線を走らせた。


作品名:【創作】「幸運の女神」 作家名:シャオ