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からっ風と、繭の郷の子守唄 第91話~95話

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 「優しいことばかり言うと、また、康平を好きになっちゃうよ。
 愛人をしている女は大嫌いと、突っぱねてくれればいいのに。
 何かあるたび駆けつけてきて、私に優しく慰めてくれるんだもの、
 あなたのことを、忘れることが出来なくなる。
 そんな自分が、辛すぎる」

 「兄貴が、妹の心配をしてどこが悪い。
 お前は、たしかに魅力的だ。
 10年前、初めて会った時もキュートで、とてもチャーミングだった。
 俺の中に、美和子という存在がなければ、君に夢中になっていたと思う。
 恋に落ちていただろう。
 そのくらい。あの時のお前は素敵だったし、綺麗だった」

 「なんだかなぁ。過去形ばかりの表現です
 そうか。やっぱり、妹で我慢するしかないのか、愛人の私は」

 「いちいち愛人という言葉を持ち出すな。煩わしい!」

 「あら。気に障ることを言ったかしら?。
 事実ですもの。そんなに、ムキになって怒らなくてもいいじゃないの」

 「そういう艶(なまめ)かしい言葉は、大嫌いなんだ。俺は。
 俺が32。、お前は今年で30歳になる。
 お互いに健康的な男と女だ。普通に性欲だってある。
 一つ間違えば大変なことになる」

 「間違えたっていいじゃないの。
 秘め事って言うじゃない。
 お互いに黙っていれば、誰にもわからないことです」

 「黙っていればって・・・・
 お前なぁ、そういう問題じゃないだろう。俺たちの関係は」

 「うふふ。冗談です。
 そんな風になってしまったら、2度と康平に会えなくなります。
 いつものように会いたいから、欲望にきっちり蓋をして、
 こんな風に禁欲しています。
 康平は、男として申し分がありません。
 私自身も、そこそこ魅力的な女だと思っています。
 男と女の中間点を探しはじめると、着地点は、兄貴と妹に落ち着くようです。
 長く付き合うには、それしかなさそうです。
 また、額へのキスで我慢します。
 仕方ありませんね・・・運命ですから」

 ベッドへ横たわった貞園が、布団を顏の位置まで引き上げる。
時計の針は、まもなく1時を過ぎようとしている。
小さなあくびをひとつ漏らした貞園が、悪戯な目を康平へ向けてくる。

 「もう寝ます。で、お休みのキスはどうするの? 康平くん」

 「つまらない挑発を繰り返すな。
 お前さんが、次に入院する時まで、キスは大切にとっておく。
 長い人生だ。
 この先で何が待っているのか、それは誰にもわからない。
 また今度、お前が傷ついて入院したら、その時も俺は喜んで看病にくる。
 ゆっくりと寝ろ。俺も少し眠るから」

 「ねぇ。少しだけ詰めれば、窮屈だけど、ベッドで私と寝られるわ」

 「いい加減にしないか。いいから早く寝ろ。この小悪魔!」

(96)へつづく