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からっ風と、繭の郷の子守唄 第91話~95話

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 「随分たつわねぇ。
 急に呼吸が浅くなって、息苦しくなるの
 指先がしびれて、意識が朦朧とするの。
 過呼吸症だと診断されたのが、3年くらい前かしら。
 今日のように人前で発作が来るのは、初めてです。
 慣れているはずなのに、気持ちが動転しすぎて、何がなんだかわからない。
 突発性のパニックというんだろうね。
 ごめんね。見苦しいわたしを見せてしまって、」

 「治療したほうがいいと、女医の先生も言っていた。
 光太郎氏の許可が出れば、入院して検査をしてもらったほうがいい」

 「来るもんか、あいつは。
 再婚の準備で有頂天で、うわの空で舞い上がっているもの」

 「それも原因のひとつかな、もしかして。今回の発作の」

 「いいえ。発作は、あたし自身の問題。
 あたしの中に、もう一人の自分が住んでいるの。
 そいつが時々反乱を起こす。
 嫌な時でも嫌と言えないし、辛いのに無理して愛想笑いしている私がいる。
 人様の前で、上手に自分を演技している私がいるの。
 元気で活発だねって褒められるたび、もう泣き始めている、
 もうひとりの私がいるの」

 「知ってるよ。
 君が本当は、ガラスのような繊細な心の持ち主だってことくらい」

 「よく言うわ。またかと思って今回も、呆れているくせに。
 わかっています。本当は軽蔑しているんでしょう、こんな私のことを」
 
 「自分をあまり責めるな。君は心の中に、闇を持ちすぎている」

 「こころの闇を持っている?」

 「光だけで生きている人間など、何処にもいない。
 誰の心の中にも、「闇」は存在する。
 光と闇は双子のように一心同体だ。
 愛には歓びといっしょに、哀しみの部分が有る。
 愛が大きくなれば、哀しみは陰に隠れる。
 でも、哀しみが消えたわけじゃない。
 愛が破綻したその瞬間、哀しみはふたたび蘇ってくる。
 それが繰り返されるたび、人の心の中で闇の部分が大きくなる。
 貞園。マザーテレサを知ってるかい?」

 「1979年にノーベル平和賞を受賞した、インド貧民街の
 聖女マザーテレサのこと?」

 「マザーは1997年、87歳で、インドのコルカタで他界した。
 マザーが始めた献身的で、犠牲的な奉仕活動「神の愛の宣教者会」の活動は、
 世界の123カ国にひろがった。
 従事するシスターの数は、3914人にのぼたそうだ。
 マザーの葬儀には、自由主義の国ばかりでなく、社会主義圏の国々も
 こぞって追悼文を送ったという。
 その後の調査で、慈愛に満ちたカトリックのマザーテレサが、
 実は、深い心の闇を引きずっていたことが明らかにされた。
 カトリックの神父たちと交わした、40通以上の手紙が、本として出版された。
 (※2007年・DOUBLEDAY RELIGION発行)
 掲載されたマザーの手紙が、世界中に、大きな衝撃と反響を呼んだ。
 どうする?。興味があるなら続きを話すが、聞きたいかい?」

 「是非、聞きたいわ!」

 「分かった。そのかわりちゃんとベッドに横になってくれ。
 いまの君は、身体と心を休めて休息をとる必要がある。
 子守唄代わりに、続きを話すから、とりあえずリラックスしてくれ」

 「はい、了解しました。康平くん」