ボンゴ
新しいランプを取りに資材置き場にトラックで向かう途中、動物園に寄った。檻の中の雪豹を眺めた。一日中眺め、風船の結びつけられた売店でポップコーンを買ってソーダを飲み、また雪豹の暮らす69番の檻の前に戻った。
白銀の気高い山を歩くその脚で、与えられた水も飲まず、うなだれながら同じところをぐるぐるまわる。欲しいものをずっと覚えている。希望も絶望も知らないくせに、死の間際まで狙い続けるその気高さ。雪豹の望む通り、69番の檻を破壊してやって、外の世界に出すにはどうすればよいか? すぐに思いつく。深夜、電動鋸で檻をぶっ壊してやればいいのだ。けれどもそうすれば雪豹は人に殺される。雪豹がその身を翻して自由になった時、死が翻る。この世界では、魂を生かそうとすると、途端に人の生贄になる。人に殺されたくなければ、魂を殺して生きなくてはならない。キリストって男も、たぶんそうだ。
麻雪と五歳の娘は、あの用心棒が来た日以来、家には帰っていないようだった。俺は工事契約書のままにツルハシを持ち、無人の家を修理しつづけている。