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ボンゴ

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 死んでいたのは口橋という名前の男で、数億も稼ぐ営業マンだったらしい。賄賂やら汚いやり方で金を集めていて、俳優のような美男だった。思い上がっていて、敵も多かった。色気があって、女には困らなかったのに、去年の夏頃から、同僚の麻雪の周りをまとわりつくようになった。
「この辺りを昼間でもうろうろしていたから、近隣の住民から二度、通報があった。一ヶ月後に失踪した。そしてボンゴの中で死んでいた」
 刑事はカーブミラーのある細い小道を指差した。
「床屋の従業員に目撃されたのが最後」
「この前は刺されたって言っていたじゃないか」
「いや、検死の結果は病死だった」
 虻が刑事の足の周りに集った。刑事は先がへたって古びた革の靴を一、二度、軍人のように動かした。
「ふつうはそんな間違いをしないだろう?」
しかし刑事は首を振って、麻雪と子供を見かけたら警察に連絡するように、と告げた。
「もと旦那が探している。裁判沙汰で」
 刑事は八代署の番号が書かれたメモを手渡し、帰っていった。
 樹木に咲く花のほとんどは熾烈な美貌を誇る。麻雪の隣家は平屋の空き家で、窓が破れていたが、庭は美しかった。白いハンカチを広げたような大きな花が、青空の下で揺れていた。刑事といえば、二人組で行動するものだと思っていた。だが先ほどの男は一人でやってきた。こんな腐った田舎の警察署の調査だから死因くらい平気で変わるってことなのだろう。
 正午になっても麻雪は帰ってこなかった。 俺は胸が騒ぎ、鍵の空いている窓からキッチンへ入った。
 ナイフの突き刺さった高級肉は冷蔵庫の中にぶち込まれていた。ナイフにはリボンがかけられ、洒落たカードが引っ掛けられている。中身を開いた。

作品名:ボンゴ 作家名:28ドル