ボンゴ
刑事は麻雪のことについていろいろ聞いたけれど、俺は家を修理にしに来たただの左官屋だったから、ほとんど知らない。知っていることと言えば、日中は普段海辺の町で仕事をしていること。その間、古いカフェを改造したこの二階建ての木造の家を俺が修理することになったこと。五歳の女の子をひとりで育てていること。
アカプルコ色に塗ったばかりの屋根から梯子で下りていく途中、船とカブトムシが目に入った。二階の子供部屋だった。砂糖菓子のにおいがした。麻雪は気味がわるいくらいに、なんども、なんども子供の頰にキスをする。
一階の窓にさしかかると、作業服を着た左官屋の俺の姿が窓にうつった。粗忽で、くだらなかった。こんな俺の麻雪を見るまなざしには、ためらいがあった。土方あがりの俺を嫌悪しているのだろう。
窓の向こうは広々としたキッチンだった。アイランド型のカウンターに、若い男の肌のように濡れた牛肉の塊が置かれ、ジャングルナイフが刺されていた。