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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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田舎農家の名画泥棒

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そこは小さなお花の農家だった。

栽培方法が特殊で採算が取れないことから、
どこにも栽培されていない珍しい花の農家。

「警察だ! 捜査協力してもらうぞ!!」

農家の2人はお互いを見合った。

「わしら何かしたかの?」
「いやいや! 僕なにもしてませんよ!」

「犯人はみんなそういうんだ!
 大麻とか死体とか隠してるんだろう!!」


「「 えええ!? 」」

警察は花畑に土足で上がり込むと、
所かまわず踏み荒らし、土を掘り返しまくった。

「待ってくれ! そこの花は大事な……」

「犯罪者に遠慮なんてするか! 黙ってろ!」

農家の2人は気が弱い。
警察に強く言われて、なにも言い返せなくなった。

およそ100万円近い被害を出すほど
さんざん荒らした後で警察は告げた。


「なにもないな」


「「 うおおおおい!!! 」」

のちに、二人の容疑がただの誤解だと証明された。

もっといえば、こんな誰にでもわかる場所に
警察に捕まるようなものを隠す犯罪者なんていない。

残ったのは、踏み荒らされた花の被害額だけだった。


※ ※ ※


「でも、僕らに盗みなんて……やっぱり無理じゃないですか?」

「それじゃあの花の被害はどうするんじゃ?
 もともと採算がとれないうえ、
 このまま借金生活になっては、それもできなくなるぞ」

「そうっすけど……僕らに泥棒なんて……」

二人がやって来たのは、名画がならぶ大きな美術館。
当然、金庫には大量の金が入っているはず。

金庫を開けると、その先には嫌に長い通路が待っていた。

「……これ、映画とかで観たことあります。
 赤外線センサーとか張り巡らされてるんじゃないですか?」

「あれは映画じゃ。
 それより、ちゃんと2つの準備してきたんじゃな?」

「しましたよ。逃げ道確保はわかりますけど、
 もう1つは……なんであんなことするんです?」

「言っておくが、わしらは泥棒じゃない」

「いやいやいや! 泥棒でしょ!」

若い農家は、先輩の言葉に即ツッコミを入れた。

「行くぞ」


先輩はそっと廊下に足を踏み入れた。



――ビー!! ビー!!


その瞬間、けたたましい警報が鳴り響いた。

「ああ! もう!
 言わんこっちゃない!!」

「いかん! 早く逃げるぞ!!」

二人は準備してきた逃走経路を使って逃げた。
金庫からはびた一文たりとも盗まれてなかった。


「はぁっ……はぁっ……!
 せんっ……ぱい……! 泥棒……失敗じゃない……ですかっ」

息も絶え絶えにしながら、後輩が愚痴る。

「いいや、大成功じゃ」

「はぁ?」

先輩農家はすべてを話して、着替えを後輩に渡した。


※ ※ ※


ビー!! ビー―!!


「警察だ!! 動くな泥棒めっ!!」

警報に連動されている通報が作動してわずか数分。
警察はすぐさま美術館へと押し入った。

けれど、すでにもぬけの殻だった。

「ちぃ……逃げ足の速い泥棒だ。
 普通なら、金庫の金をなんとか持ち出そうとして
 多少は逃げるのが遅れるものを……」

警察の1人が気付いた。

「おい! 金庫の扉が開けられているぞ!」

「金は無事か!?
 盗まれでもしたら、俺たちの責任問題だぞ!」

警察は慌てて金庫の方に走った。
しかし、金庫の金は無事だった。

「ああ、よかった。
 まったく驚かせやがって」

「おおかた、金庫の金を盗もうとしたものの
 セキュリティを突破できなかったんだろう。
 まったく、とんだ素人の田舎泥棒だ」

警察はすっかり安心して、金庫への道を戻った。
そこでやっと気が付いた。

「……おい、あれ……」

さっきまでは金庫にばかり注視していて、
足元まではよく見ていなかった。

足元には、額から外された美術館の名画が床に置かれていた。

しかも、くっきりと警察の靴跡がついてしまっている。
名画が台無しだ。

「うああああ! ウソだろ!?」

「ど、どうするんだよ!?」

警察は顔を真っ青にした。



翌日、美術館職員は台無しにされた名画に目を落とし、
ただ静かにうなだれていた。

そこに、まだ客が来ないうちに警察がやってきた。

「あの……このたびは、大変申し訳ございません。
 名画を台無しにしてしまって……」

「これはほんのお詫びですが……。
 できれば、警察の威信もあるので、
 輸送中の不備とかで壊れたという話にしてもらえれば……」

職員はお互いの顔を見合わせ、はぁと長い溜息。

「名画の価値もわからないあなた方に
 お話しすることはありません……」

「わっ、わかりました!
 倍の金額をお支払いします!
 だから、この話はなんとか黙っていてください!!」

「……わかりました、いいでしょう」

警察は金を渡すなり、そそくさと帰っていった。






「それじゃ、戻しましょうか先輩」

「じゃな」

農家の2人は、美術館職員の制服を脱いで
隠していた本物の名画をそっと飾り直した。

踏み荒らされたコピーの名画はゴミに捨てられた。


美術館は何事もなかったかのように開館し、
その入り口には二人の農家が栽培した花が咲き誇っていた。