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レイドリフト・ドラゴンメイド 第14話 チタン骨格の呼び声

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 あの冬の日、道路に流れた自分の血は、思い出の中では黄色。
 アスファルトの硬さ、冷たさ。
 けたたましいエンジン音。鼻を突き刺すような排気ガスの異臭。
 それなのに動けない、痛みと、血の中でつぶれた自分の足。

 だがその記憶をあわてて振り払う。
 そして自分に言い聞かせる。ここは2年前じゃない。事故現場の道路じゃない。
 達美はその記憶を、淡々とした物に変えようと試みた。
 そうだ。今の自分の意思は、ほとんど兄からもらった量子コンピュータによるものだ。完全にコントロールできるんだ! そう信じながら。
 だが、おちつかない。
 その上、アームで固定された体は動けない。
 すなわち逃げられない。
 思いだされる生命として根源的な恐怖が身を震わせる。

 気を紛らわすために、電話をかけることにした。
「オンラインへ接続してちょうだい」
 オウルロードによる世界支配の一つ。こちらから電波を発信しても、敵には位置がわからない。
 ここが現実世界ではなく、量子コンピュータでコントロール可能な世界。
 オウルロードは世界の物理法則さえ書き換え、電波を拡散させることなく、指定したランナフォンにだけ照射する。
 それこそ、有線ケーブルに近い感覚で。
 生まれたネットワークは、入り口のトンネルを通り、現実世界へ伸びていく。

 地球側では、20年前の異能力者発生現象と、それに興味を持った異世界人、異星人に触発され、発展した科学技術がある。
 未知なるものを積極的に取り入れることで、それまでになかった選択肢を得たのだ。
 量子コンピュータも、その一つだ。
 一方、スイッチアは50年前に異星人からの侵略をうけていた。
 それに対し、スイッチアではチェ連という国にまとまり、手作業で維持できる兵器と地上戦という自分たちの技術的不利を埋めてくれる戦いを選んだ。
 そのような世界では、その内に世界を内包さえできる量子コンピュータ技術も、軍の演習に使われる世界を維持するので精いっぱい。臨機応変な対応ができない。

 地球側では、最新技術より少し古い技術でも役だつ使い方をする。
 生徒会のスマホには、危機的状況でも安全に通話するためのアプリが入っている。
 スマホのタッチパネルを触ると、心拍数をはかるアプリがある。
 それと同じ原理で、スマホを服などに入れているなら、持ち主の心拍数を調べる。
 普通の人間が命の危険にさらされると、心拍数は1分間で175回にもなる。
 訓練されたなら、70~100回。
 魔術学園の生徒会なら、70~100回の方。
 それ以下なら、安全なところにいるはず。
 もし、電話の相手が敵から隠れている時に、電話が鳴ったらたいへんだ。

 達美は相手を、キャロライン・レゴレッタに選んだ。
 キャロの心拍数は、普通。
「キャロ? 今どこ? 」

 一瞬、電話の向こうから息をのむ音が聞こえた。
『フセン市役所! そっちは?! どこに居んのよ!? 』
 小柄ながらパワフルな体育委員長は、あわてた声で呼びかけた。
「空に、ポルタが見えない? その中に量子ワールドがあるの。私達に隠れて、あんなの作ってたのよ! チェ連の科学者たちは! 」
 達美は怒りながら、カーリタースから聞きだしたことについて語りだした。

 メンテの雑音は車内には鳴り響いている。
 だが、ブレイン・マシン・インターフェイスで行われる電話には流れない。
『それで? あんた、高すぎて降りられなくなったの? 』
 キャロの異能力はテレポーテーション。
 そんな彼女らしいジョーク。
 その声は、達美から乗り移った怒りに震えていた。
「いいえ、ただいま大ダメージで大修理中です」

 達美には、こうして話を聞いているだけでも、多くの情報が聞こえてくる。
 猫は元々、人間の聞こえない音を聞き分ける。
 壁の向こうを歩くネズミの音さえも。
 しかもサイボーグボディには、雑音を消して電話から漏れ聞こえる声でもピックアップする機能がついている。
 彼女の脳をサポートする量子コンピュータは、違う仕事を並列処理する能力に優れている。
 車の運転と並行して、会話に耳を澄ました。
 そんな会話の間、キャロの周囲から聞こえる音は。声は。
 プラスチックのボールが、いくつもコンクリートの床を転がる音。
『あなた! もう大丈夫よ! 』
 女性の声だ。
 ただし、ボイスチェンジャーでうすくエコーをかけたような、不自然な声。
『ずっとあなたを待っていたの! この星に和平のためのために旅立ったあなたを! 私を置いて行かないで!! 』
 達美には、予想外の事態だ。
 女性の叫びは続く。
『ほら、あなたの息子よ。あなたを迎えに行くのにテロリストになるなんて! 叱ってやってください! 』

「そっちも、いろいろ複雑なようね。もっと詳しく教えてくれない? 」
『それなら、智慧の方が早いよ。ちょっと待って! 』
 城戸 智慧。保険委員長のテレパシスト。
 今、チェ連の攻撃により車椅子を余儀なくされている彼女だが、今回ならうってつけだろう。
 やがて、電話から亜麻色のショートボブの少女が叫ぶのが聞こえた。
『THE Student Council! Attention!! 』
 生徒会の注目を集めるのは分かるが、なぜ英語?
 達美は疑問に思ったが、その効果は確かだった。
 フセン市役所だけではなく、市街地中に展開したTHE Student Councilたちが五感で感じた事が、テレパシーで次々に送られてくる。
 生徒会全員ではないのは、情報の並行処理の面では嬉しい誤算かもしれない。
 残りのメンバーなら、送られてくるいくつかの視界に映っている。
 地球にもスイッチアにも生まれていない異形。
 彼らが夜の闇と、街を焼く炎の間で駆けまわっていた。