イメージ 〈詩集〉
老人とユリ
家の前をとぼとぼと歩いている老人が
視線に気付いたかのように顔を向ける
視線を辿ると花壇のなかの一画のようだ
老人の気を惹いたのは赤いユリだ
情熱を放射するような赤い色
でも
おそらく老人の見ているものは
赤い色ではなく昔に見た白いユリ
初恋に似たむせるような若さの匂い
そして
今はもう見ているものは違うかもしれない
妻に似てソバカスの多い橙色のオニユリか
思いを振り切るように老人は頭を振る
あらためて
老人は心に刻むように赤いユリを見る
肯きながら赤いユリを見る
いくらか力強さを増した足取りで
老人が去って行く