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きんぎょ日和
きんぎょ日和
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毎週月曜日のシカさん。~その二~(完)

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(続き)

それから何故だろうか、毎週月曜日にシカが出なくなった。
他の動物たち、野うさぎ・タヌキ・キツネ・イタチすらも出なくなった。
シカが出ないにしても何かしらの他の動物は必ずいたのに、それすらも出会わなくなった。
私に向くお母さんの顔が、週を追うごとに睨みがきつくなり怪しくなって行った。
『このまま、ずっとシカが出なくなったらあなたのせいだからね!!みんな、あなたが怖いんじゃないの?!』
と…。
そんな事をこちらのせいにされても…と思ってはみたものの、まさか本当に私のせいかも…と頭を過り始めた事も事実だった。

そして次の週、次の週と出なくて、
『あなたが帰った次の週から出たりしてね…。』
なんてお母さんが冷たく言い始めた。

それから私が旦那さんの元へと帰る日となった。
お母さんが初めてシカを止めてから一ヶ月ほど経っていた。
旦那さんの元へと帰ったのが土曜か日曜だった。
そして月曜日、お母さんが仕事に行くと電話がかかって来た。
そのまま電話で話しながらお母さんは生徒の家へと向かう。
その時の会話がまぁ~、冷たくて思いやりもなくて…。
『さぁ~て、あなたも帰った事だし、さぁ~てシカさんはいるでしょうか…。これでいたら、あなたが怖かったって事だからねっ!!』
と電波が入らなくなるので電話を切った。
それから、五十分後に電話が掛かった。
『もしもし、お仕事お疲れさんです。』
と私は言った。
でもお母さんはそんな事聞いてもなく、
『それより、どうだったと思う?!どうだったと思う?!シカはいたと思う?!』
とバレないように落ち着いて喋ろうとしているんだろうけど、上がるテンションを抑えようとするのも伝わってくる。
それでも私は考え、その態度もフリなのかも…と何パターンかを考えながら、
『…いた!!いや、いなかった…!!』
とお母さんの空気を感じながら言った。
お母さんは黙って何も言わない。
もう一度、
『ん~…いないっ!!』
と言ったら、
『いた~!!いたの~!!しかも二頭。』
とお母さんは輝いた声で言った。
『えーーーっ、いたの~っ?!それで、止まった?!』
『うんうん、止まった止まった。ちゃんと“こんばんは~。”って言ったよ。シカも、“こんばんは~。”って言った気がする。それで、止まったままずっとお母さんの事見てるの…。それでね、どうして一ヶ月も出て来なかったの?!って聞いたら、何かね、“あいちゃんが怖かった~。”って顔に見えたから、“あいちゃんが怖かったの?!”って聞いたら、シカの目が大きくなった。』
とお母さんは感激のあまりの声でそう言っていたのに、その後から急に声が低くなり、
『やっぱりあなたのせいだったね。みんなあなたが怖いのよっ!!だからシカも他の動物も出て来なくなったのよ。あ~、動物がかわいそう~。だからお母さん、シカさんに、“もうあいちゃん帰ったから大丈夫よ~。”って言っておいたからね!!』
と言いやがった。
どうしてだろうか本人と電話越しなのに、本人は目の前にいないのに、私の目が細い。
私は言葉が出ずに、細い目をして短く音もなく肯いていた。
そんな私にお母さんが、
『何か言ったら?!どうよ?!お母さんの方が正しかったから何も言えないの?!』
と言ってくる。
私はイライラしながら、
『動物は話せないので、その話が本当かどうかは分かりません。それにお母さんから聞くだけなので、本当の動物の気持ちは分かりません。』と棒読みでそう言った。
『はあ~っ?!あなたよくもそう言えるねぇ~。今回はお母さんの方が正しかったです。はい、残念でした。と言う事で、シカはいたが正解でした。みんなお母さんの気持ちを分かってるのよ。みんなあなたが怖いから、お母さんと同じ気持ちのシカがお母さんの所に現れたの。これは事実。負けを認めたら~。』
と言いやがる…。
何で、動物の事でお母さんに負けなきゃいけないのか…?!
悔しかった~。
マジで本当に私が帰った後に出るとは…。
そこのシカたちは何を考えていたのだろうか…。
私ってそんなに怖いかなぁ~…?!
でもこの事についてお母さんに聞いたら、出て来る答えは分かってるし~。
受け止めたくない心がある…。
この日の電話はお母さんの一方的な形で幕を閉じた。

それから次の週の月曜日。
いつものように車から電話がかかった。
『さぁ~て、今日はいるかなぁ~。もうあなたが帰った事はお母さんがシカさんたちに伝えてあるから、大丈夫だと思うのよねぇ~。対向車がいなかったらいると思うのよ。まあ、滅多に対向車はいないから、いると思うのよねぇ~。またあなたの事言おう!!』
と要らぬ一言を付け足しながら生徒の家へと向かう。
そして、十九時十五~二十分、電波が入らなくなるので切る。
結果はすぐには知れない。
二十時十~十五分に帰りの電話が掛かる。
そしてその時間、携帯が鳴った。
『はい。』
と出たら、もうテンションが高い。
こりゃまたシカが出たなと分かる。
お母さんが、
『シカいたと思う?!』
と聞いてくる。
『そのテンションで聞いて来て、いないのもおかしいよ。いたからそのテンションでしょ?!』
と私は面白くないのでそう言う。
そんな私の言葉にお母さんもテンションが落ちて、
『えー、いましたよ。はい、シカはいました~。お母さんが、“待って~。”って言ったら止まったよ。もう、お母さんの方が上手かもね!!』
とか言い始める始末。
人のネタ取りやがって~と面白くなくなる私。
面白くない私にテンションがあがったお母さんは、
『シカさんたちは絶対あなたが怖いのよ!!だから今日はお母さん、“あいちゃん知ってる?!あいちゃん怖くない?!”って聞いたの。そしたら、シカさんの目がまた大きくなったの。だからお母さん、“お母さんも一緒~っ!!あいちゃん、恐ろしいよねぇ~。みんな同じ事思ってるのねぇ~。よかった~。”って言ったら、シカがなんかホッとしたように見えた~。やっぱりあなたは恐ろしいのよ。それが分かっただけでも今日は良い日だった!!』
と勝手な事を言った。
またも面白くない私は、
『生態系を崩さないでください。』
と冷たく言ったら、
『崩してません。あなたが崩してるんじゃないの?!』
と冷たく返された。
どんどんお母さんが私の聖域にズカズカと入って来てるように感じた。
私の世界が乗っ取られるーーーっ!!なんて事も頭を過るし…。

そんな事が毎週、毎週と続いて、八~九割ほどシカに出くわし、お母さんは“待って”と言って、シカと話しては、たまに私の事をチクっていた。

こんな状況の中、私は上(神様)と知り合った。
そして、お母さんが月曜日のシカの所に行く時に、だんだんと待ってるシカが見え始めて、見えてる姿のシカをお母さんに毎週伝えていた。
お母さんが電波が入らなくなる前に、
『今日はシカさんいる?!』
と私に聞くようになって、見えたものを私は伝えるようになった。
『親子のシカが見える。まだ小さいシカさん。母親と一緒なのかも…。』
と伝えて、八時過ぎにお母さんから電話。
『あなたが言ってた通り、二頭のシカがいた。他にもいたけど、その二頭がお母さんの方をずーーーっと見てたの。どうしてだろうね?!』
と言う。