月彼女
1 焦らず、急がず、ゆっくりと。
わわわ、遅刻するー!!
『待って下さい翔君!』
「何?」
『携帯電話、お忘れですよ。』
「あ、ありがとう!行ってきます!」
『いってらっしゃい。』
よし、今日も頑張るぞー!
いつも通り遅刻ぎりぎりに家を出た僕は、フルスピードで駅の改札口を通り抜け電車に乗り込んだ。危ない危ない。この電車を逃したら完全に遅刻だ。
一般的に田舎と呼ばれるような場所で、普通に小学校に行き中学校に行き、高校に行き、大学に通った僕が選んだ職業は、所謂「編集者」。理由は単純に本が好きだから。
だけど僕は就職活動で出版社の面接を片っ端から受け、片っ端から落とされていった。
理由は分かんないけど、多分、僕がほえほえしているからだと思う。
ある出版社では自分の名前を翔なのに噛んで、ション(犬の名前みたい)って言っちゃったり、その前の出版社では清掃員さん磨き立てのつるつる床につるっと滑って、廊下で鼻血の湖を作っちゃったり。
そんな訳で面接に弱い(?)僕だったけど、やっととある出版社に就職が決まり、もうかれこれ五年そこでお世話になっている。
逆に何で受かったのかはすごく気になるところだけど、まあ、受かったからいっか。
そんな事より遅刻遅刻ー!!!