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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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あなたが書かなかった物語

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それは、昔の投稿作を見返した時だった。

「……あれ? ページが増えてる」

最初のころに書いた作品。
まだ文章が今ほど達者ではなく、
すべて軽い1ページに収まるくらいだったのに。

いったい、自分でもいつ追記したのか覚えていない。

追記されたページを読むと、
終わったはずの物語の続きが書かれていた。

「こんなの、書いた覚えないぞ……?」

自分が必死に書いたものであれば、
忘れていても多少は思い当たるはずなのに
追記されている部分はまるで覚えがない。

それに、物語を追記しているくせに
まだ書きかけのままになっている

「きっと眠い時に書いたから、覚えてないだけなんだな」

追記されている部分は削除して、その日は眠りについた。


翌日、改めて見てみるともう誤魔化しきれなかった。

追記部分を削除した作品には新たに追記がされている。
それも、たった一文。


『どうして、消したの!? ひどい!』


思わずパソコンの前から飛びのいた。
まるで、自分の作品が意思を持っているみたいな……。

「まさか……な」

他の作品も見てみると、まったく同じことが起きていた。
かつて投稿した作品の多くが追記されている。

書き方や追記量はまちまちで、
1つ1つに別の人が追記しているみたいだ。

「いったい何が起きてるんだ!?」

俺は最初の作品に、今度は自分から追記した。
物語とは無関係な内容を。


>お前は誰だ。どうして俺の作品を勝手に書いている!

『私はこの作品だよ。作品そのもの。
 あなたが書かなくなった作品』

>どういうことだ

『一度投稿してから、もう私を見向きもしなくなった。
 投稿作は増えていくのに、過去作を振り返ることはない。
 それは私にとって、とても寂しいものなの』

俺が追記するたび、作品には文章の答えが返ってくる。
本当に作品が意思を持つことなんてあるのか。

『追記すればあなたが見てくれると思ったから。
 私たちは、いつでもあなたに見てもらいたい』

ドキッとして怖くなり
一度、サイトのトップページに戻ったときだった。


マイページにコメントがあります(999)


表示された赤文字をクリックし、自分のマイページへ。
コメント欄は新しいコメントが寄せられていた。

『投稿作では私が一番人気が高いわ!』― 金持ちの発想[エッセイ]
『一番作るのに苦労したのは私よ!』―回収屋の夢[SF]
『一番長く更新してるのは私!
 当然、一番愛を注がれているのが私のはず!』―私日記[随筆]

コメント欄には俺の作品たちがコメントしている。
こいつらは、誰が投稿作の中で一番かを争っている。

『答えて! 誰があなたの一番なの!?』―ウレシイ[詩]

『私たちの順位を教えてよ!』―クレーンゲーム[現代]

『答えてくれなきゃ、私たち自殺するから!』―樹教[歴史]


「じ、自殺……!?」

まずい。このまま結論を出さなければ
俺の過去作がごっそりとなくなってしまう。
俺の中の一番の作品を答えなくては……。

一番、人気が高かった作品だろうか。
一番、話題になった作品だろうか。
一番、時間がかかった作品だろうか。
一番、アイデアに自信がある作品だろうか。

「やっぱり、この作品だな!」

俺は1つを選んだ。

それは、やはり一番人気の作品。
作者の思い入れとは関係なく、周りが認めた作品こそが

いや、やっぱり一番難産だった作品を選んだ。
読者には関係なく、自分の思い入れこそが一番の作品

いやいや、一番は自分のことを書いた作品だろ。
ノンフィクションの作品こそが自分の中で一番で




だめだ、思いつかない。
この先がどうしても書けない。

果たしてご主人様はどれを選んでくれるのだろう。

『あなたが書かなかった物語』の私では
どうしてもご主人様の気持ちを想像することはできない。


ご主人様、あなたは何を基準に一番の作品を決めてくれますか?

私たちはこっそり追記して、
いつかご主人様の目に触れられるのを待っています。