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サカナネツ

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明日から学校は夏休み。

メイク、ファッション、一番きれいな私で

彼に会いたい。

と思ったけれど、今日学校が終わったらやっぱり来てしまった。


友達は

「それって魚くんじゃね? ぎょぎょぎょ」

「さかなサカナ魚ー♪ って歌流行ったよね」

「夏休み中にラブラブになれるといいね」

とか意見いろいろ。






 そしてシモキタの駅。

縦長のビルの入り口。

私は『午後のサカナたち』のドアを開けた。




 いくつもの水槽の中で泳ぐ熱帯魚たち。

ブログの写真で見た風景だった。

このカフェはサカナネツさんのブログそのもの。





 「いらっしゃいませ」

入り口には、私が来ることが分かっていたかのように

彼が待っていた。

不思議。ドキドキよりもホッとする安心感。


「ずっと待っていたんだ。サカナたちと」

彼は私の手を取り、

「こうやって手をつないで熱帯魚を見るのが夢だった」

そう言って水槽の中の熱帯魚、

ひとつひとつの名前を教えてくれた。



 彼の手は、まるで風邪を引いたときみたいに、

熱かった。









「夏美! 夏美!」

ママの声で私は目を開けた。

「夏美、よかった。目が覚めて。

5日も熱が下がらなくてうなされてたのよ」

ママは私の手を強く握っていた。



 「夏美起きた?」

黒いスーツを着たお兄ちゃんが部屋に来た。

「熱も下がったし、もう大丈夫よ。

遅れるといけないから早く行きなさい」

「うん。行ってくる」





 「お兄ちゃん、今日お葬式なのよ。

昔社宅に住んでたとき、

隣に海斗君ていう、お兄ちゃんと同い年の男の子がいたでしょ。

あの子が一昨日バイクの事故で亡くなったのよ」

「海斗君?」

「夏美もよく家に遊びに行ってたじゃない。

熱帯魚が大好きな男の子」








 サカナネツさんは、海斗君だったんだ。

海斗君は私の初恋で、大切な思い出。

私は夢の中で、

初恋を実らせ、そして終わらせた。

海斗君がそうしてくれたんだと思った。


こうして私の不思議なサカナネツは、

5日目で醒めてしまった。





作品名:サカナネツ 作家名:セリーナ