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からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話

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 「じゃあ、どうすんの。
 手詰まり状態のまま、黙認していろと言いたいわけ?
 冷たいのね康平は。
 愛する美和ちゃんが大ピンチだというのに、で他人事みたいに
 冷静に分析しています。そこまで薄情な男とは思わなかったわ」

 
 「当たり前だろう。他人の関係だぜ、俺たちは。
 しかし。知らん顔をしているわけにもいかないな。
 心当たりがある。亭主がどんな男なのか、少し探りをいれてみょう。
 なにか、手が打てるかもしれない」

 「美和子も妊娠初期で、とても、デリケートな時期なの。
 力になれることがあれば、何としてあげたいもの。
 でもさ。犯罪絡みの話でしょ。
 康平みたいに、冷静ではいられないのよ」

 「10年近く居酒屋をやってるんだ。
 酒を飲ませて、気持ちよく酔っ払わせて帰すのが、俺の仕事だ。
 ストレスから自分を開放させるために、酒を飲む。
 だからほとんどの客が、酔っ払うとお喋りになる。
 話し相手として、聞き上手に徹する必要がある。
 相槌(あいずち)を打って頷くだけでは、会話の進行に無理がある。
 話を引き出すため、適当にきっかけをつくったり、
 働きかけるこおとも必要になる。
 俺の商売は、客を気持ちよく酔わせ、気分よくペラペラ喋らせることだ。
 満足させてから、家族が待っている家へ無事に返す。
 ゆえに、誘導尋問は、得意中の得意だ。
 小娘の手をひねるなど簡単なことさ。朝飯前だ」

 「悪かったわね。朝飯前に簡単に、手をひねられてしまう小娘で。
 でも、なんでそんな簡単に、今回の込み入った状況を把握できたわけ?
 推理力というか、洞察能力は隅におけませんねぇ」

 「簡単なことだ。
 俺に聞かせたくないから、2人して俺の店以外の場所で会う。
 いつものことだから、すこし探りを入れれば、やがて白状する。
 美和子のDVは、それとなく気づいていた。
 亭主とは、夜の繁華街で知り合った。
 売れない演歌歌手で、東京から来た流れ者だという。
 ふたりが同棲するまで、それほど時間はかからなかったようだ。
 ヤクザ関係の悪い噂があるので、気にはしていた。
 しかし。美和子が幸せなら、別に問題はない。
 DVも、そのうち当人たちで解決するだろうと、タカをくくっていた。
 だが亭主が反社会的な犯罪者となれば、話は別だ。
 美和子のために、対策を考える必要があるな」

 康平は考え事をする時の癖がある。
両手を腰に当てて、天井の一角をぐいと見あげる。
小首をかしげ、胸の前で両腕を組む。こうなると誰にも止められない。
本格的に考えはじめた証拠だ。
『うう~ん』やがて組まれた両腕から、指が伸びてくる。
その指が顎に届き、やがてじょりじょりと撫でていく。

 (私もパニックに陥った。康平もやっぱり、相当の難題のようだ。
 考えるポーズに、新しいバージョンまで加わってしまったもの。
 一筋縄では解決しないか・・・。
 そう言えば青い服の女の話は、いつのまに、どこへ消えたのだろう・・・・
 なんだかうまく、誤魔化されたような気がするな、康平に。)


 貞園が開店前のカウンターで、ポツリと感想をつぶやいている。