からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話
碓氷峠(うすいとうげ)は、群馬県安中市の松井田町と、
長野県北佐久郡軽井沢町の間に有る急峻な峠道だ。
最高到達点は、旧道で標高960m。いっぽうのバイパスは、1030m。
信濃川水系と、利根川水系を分ける中央分水嶺でもある。
長野側に降った雨は日本海へ流れ、群馬側に降った雨は太平洋へ流れる。
峠を越えた瞬間から、軽井沢の高原が広がる。
噴煙と雲をたなびかせる浅間山の勇姿が、眼に飛び込んでくる。
洒落た軽井沢の町並みが、緑の中に点在する。
軽井沢は、別荘とリーゾート施設と観光が混在する街だ。
「あなたに繭の説明なんかしていたら、1日が終わってしまいます。
お天気が良いのに、私は何をしているんだろうって考えたの。
あなたのバイクのバックシートの乗り心地は、最高だもの。
こんな日に、軽井沢の街でも歩けたらもっと素敵だろうなぁって考えたら
もう居ても立ってもいられなくなってしまいました。
会話ができるこのヘルメットも、気に入りました。
2輪車の開放感と、ヘルメットの秘密めいたおしゃべりがたまりません。
わたしって、仕事嫌いのサボリ屋さんなのかしら。うふっ」
千尋は、バックシートの位置取りにも慣れてきたようだ。
康平の腰へ、柔らかく両手を回す。
そのままの態勢を保って、康平の背中へふわりと身体を密着させる。
ヘルメットに付いたインカム装置(通話のできる小さな機械)が、
すっかり気に入ったようだ。
何時まで経っても、千尋の一人おしゃべりが止まらない。
「もくもくと糸を引いている自分が、一番大好き。
蚕室の様子を覗いたり、桑畑を散策しながら仕事のことを、
あれこれ考えている時の私も好き。
ラジオをつけて、お外をながめながら、ぼんやりお茶している私も好き。
そんな私がつい最近、もっと好きになったのは、
あなたのスクータの後部座席。
なんだか、別の私が目覚めたような気がします。
速度が上がるだけで、胸が、ワクワクしちゃいます。
私って、実は、イケナイ女みたいですねぇ・・・うふっ」
別荘地帯として知られている軽井沢へ、800万人以上が訪れる。
1000mの高地になるため、年間の平均気温は7.9 ℃と北海道並み。
冬季は気温が、零下15 ℃以下まで下がる。
そのため、冬の寒さはとにかく厳しい。
夏は涼しいが冬は寒すぎるため、典型的な高原型避暑地になっている。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第76話~80話 作家名:落合順平