君、死にたもうことなかれ
それは幾度も傷付けられて、もうすぐ二の腕に届いてしまいそうなくらいだ
「死にたがり屋」の君はストレスに耐え切れず、いつも腕に刃を当てる
最近は快楽を貪るように、恍惚の表情で刃を引くという
僕の本心を言えば、君にはそんなこと、やめてもらいたいんだ
なかなか君には言えないんだけどね
愛する君をつなぎ止めるために、僕は君を抱く
熱い抱擁の中で、君の存在意義が確かめられるように意識して
君は僕に抱かれる時、傷跡を触られるのを嫌がる
やっぱり気にしているよね
でも僕は君のすべてを愛したい
ありのままの君のすべてを
抱き合いながら君と僕の世界は、愛を謳歌しながら、やがて一番遠い近くで開かれていくんだ
ひとりでは決して得られない、肉体と精神の融合を果たすために
君には僕が必要で、僕には君が必要なのがわかるだろう?
でも僕は君に「自分を傷付けるのはやめて」って言えそうにないよ
それを言ってしまうと、すべてが終わってしまいそうで怖い気もする
僕は臆病者なのかな
それとも偽善者かな
でもね、僕が言ったからって、君が自分を傷付けるのをやめるとも思えないんだ
きっと、君の心の奥底にある「何か」が、そんな衝動に駆り立てるんだと思う
僕はそっと、側で君を支えるよ
でも、これだけは覚えておいて
僕はいつも怯えているんだよ
「君に何かあったらどうしよう」って
そして、いつも願っている
「君、死にたもうことなかれ」って
作品名:君、死にたもうことなかれ 作家名:栗原 峰幸