どこにでもドア~~
「なあ、あれなんだ?」
友達が指さした先に、
道路の幅をふさぐように大きな扉ができていた。
軽く叩いてみると、
明らかに壊れないような音が返ってくる。
「誰かのいたずらかな?」
「こんな大がかりなイタズラするか?」
試しに友達がドアを開けてみた。
ドアの奥には普通に、道路のその先が見えていた。
「なんだこれ、ドアのオブジェか何かか?」
とはいえ、道路を隙間なくぴったり塞ぐようにあるので
ドアを二人でくぐった。
ドアの向こうはもう道路じゃなかった。
どこかの公園の公衆トイレのドアを開けていた。
「な、なんだぁ!?」
「ワープしたぞ! すごいな!
もっかいやってみよう!」
もう一度、公衆トイレのドアを開けようとしたが
中に誰もいないはずのトイレがびくともしない。
蹴ってもまるで壊れる気配すらない。
「なんなんだよ……開かなくなっちまった」
「さっきの、どこでもドアだったりしてな」
「バカ言え」
公園には見覚えがある。
近所の3丁目公園のトイレだろう。
家路につこうとしたが、再びドアが道をふさいでいた。
「またかよ」
けれど、今度のドアは開かなかった。
誰かがすでに開けてしまったのだろうか。
「しょうがない、回り道しようぜ」
「だな」
回り道した先にも大きなドアが道を塞いでいる。
別の場所にも、抜け道にも、どこにでもドアが現れた。
「いったい何だってんだよ……」
「なあ、俺たち……もしかして閉じ込められてないか?」
ネットやテレビではすでにニュースになっていた。
『ただいま3丁目上空です!
町を閉じ込めるようにドアが!
巨大なドアが町を閉じ込めています!』
『救助隊が必死にドアの破壊を試みていますが、
未知の物質でできたドアを破壊できません!』
この町、3丁目だけがドアによって隔離された。
俺の家がある4丁目までは徒歩5分もないのに。
「どうするんだよ!? 閉じ込められちまったぞ!?
このままじゃ俺たち3丁目で食べ物が尽きて死ぬんだ!」
「落ち着けって。ほら、上を見てみろ」
空からはパラシュートを開いた救援物資が落とされていた。
ドアが3丁目を封鎖しても、空から食べ物は配給できる。
はずだった。
一瞬で空に巨大なドアが現れて、空は見えなくなった。
3丁目は光すら届かない真っ暗闇に包まれた。
「うああああ! 終わりだ! もう終わりだぁぁぁ!!」
太陽の光がさえぎられた不安感で友達は発狂した。
近くにある3丁目で最も高い高層ビルへと走っていった。
「おい! 何するつもりだよ!」
その背中に声をかけても、なにも答えはなかった。
いつの間にか、足元のコンクリートもドアに変わっていた。
下水道を使って脱出する、なんてのもできなくなった。
暗さに目が慣れ始めると、
高層ビルの屋上にはしごをかけている人影が見えた。
「……まさか、空のドアを開けるつもりじゃ……」
グラグラと不安定な脚立を空のドアに向かって伸ばす。
「おい! やめろ! 危ないって!」
一心不乱に梯子を駆け上がる友達に叫ぶ。
「空が……この先に空があるんだ!!」
友達はついに空のドアに手をかけた。
ドアを開けると、青い空が見える。
「ああ……空だ……自由だ……」
友達がドアをくぐると、地面のドアから上半身が出てきた。
空のドアは、地面のドアにつながっていた。
「あは……あははははは……嘘だ……嘘だ……」
「おい! 手を離すな!」
俺は地面から現れた友達の上半身に手を伸ばす。
でも、もう遅かった。
空のドアからも脱出できない絶望に打ちのめされ、
友達はドアから手を放した。
バランスを崩した下半身に引っ張られ、
高層ビルから脚立ごと友達は落ちてしまった。
・
・
・
友達の死から数日が経った。
3丁目はいまだに隔離されていた。
『政府は3丁目の救助を諦め、
拉致被害者の救助へと切り替えました』
もう誰かに助けてもらうことはない。
俺自身、思いつく限りのドアは開け尽くした。
中には、3丁目の外につながっているドアもあるらしい。
生存者としてテレビで騒がれていた。
「これで食べ物も最後か……」
ああ、家に帰りたい。
俺はどこかの家の物置……そのドアを開けて中に入った。
中は、コンビニになっていた。
見覚えのある店内に絶望がまた上塗りされる。
「ここもハズレか……」
一度開けたドアはもう二度と開けられない。
3丁目に残されているドアはもうないだろう。
でも、3丁目に閉じ込められた人たちはきっと
今も外につながっているかもしれない希望を捨てきれず
手当たり次第にドアを開けているに違いない。
「もうだめか……俺はここで死ぬんだなぁ……」
コンビニの壁にはバカでかい穴が開いていた。
きっと誰かがドアを使わずに中に入るためだろう。
まったく、これじゃまるで廃墟だ。
廃墟?
「あ、そうだ!!」
まだ誰にも開けられていないドアが1つだけあった。
俺は友達と行った廃墟へと戻った。
空のドアが光をさえぎっているのもあるけれど、
廃墟はなお一層の不気味さを出していた。
でも、それは俺にとって好都合だった。
こんな場所、マニアでもなければ近づかない。
「壊れていないドアは……ここだけか」
俺は祈りを掌に込めて、ドアノブをひねった。
カチャリ。
ドアは錆びた音を鳴らしながらゆっくり開いた。
「お願いだ……お願いだ……外につながってくれ!!」
俺はドアをくぐった。
そして、公園の公衆トイレに出た。
ここには見覚えがある。たしか近所の……
「4丁目公園! 4丁目公園のトイレだ!!」
トイレを出ると、外から3丁目を封鎖するドアが見えた。
「やったぁ! 出れた! 俺は出れたんだ!!」
空には青い空が広がり、太陽の光が降り注ぐ。
これほど生きていて嬉しく思ったことはなかった。
俺は走って家へと戻った。
もつれながらも言えの鍵を取り出し、玄関のドアを開けた。
「ただいま!!」
ドアの先は、3丁目の廃ビルのドアにつながっていた。
あなたが今、開けようとしているドア。
本当にあなたが考えている場所につながってますか?