LOVE FOOL・前編
「いやあねー。あたしはいつも安全運転よ、アストちゃん」
わざとらしくおほほほ、と笑うシアンに大きな溜息を吐く青年…アストは背もたれに深く沈んだ。
まさか、もう気づかれているのだろうか?
胸の中で渦巻く復讐と、殺意はとてもこの身には重いものだった。
けれど止める訳にはいかない。
ゆっくりと瞼を閉じた姿をミラー越しに確認するとシアンは再びハンドルを握る。
砕けた会話を重ねても、自身については何一つ話そうとはしない客。
剣を持つ物がイエソドに用ある事自体、ただ事ではないと長年の経験で知っていた。
「安心して、明日中には届けてあげる」
だから今は、おやすみなさい。
決して熟睡はしない、アストの寝顔に小さく囁く。
明るく照らす月光すら彼の眠りを妨げるとシアンはカーテンを下ろした。
===END。
*ヴィジャボード…交霊術に使用されるアルファベット、YES、NOの描かれた文字盤。
*プランシェット…ヴィジャボードの上を走らせるハート型の丸い穴の空いた交霊の媒介。
作品名:LOVE FOOL・前編 作家名:弥彦 亨