からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話
配偶者からふるわれる暴力「DV」は、身体的な暴力だけではない。
性行為の強要や、精神的暴力なども含まれる。
DVは女性に限定されたものではないが、被害者の9割が女性だ。
DVを受け続けている被害者にたいして
『どうしていつまでも、そんな人にくっついてるの?』
『もう別れた方がいいんじゃない?』といくらアドバイスしても、
被害者が関係を断ち切れないケースが多い。
アメリカのDV研究家で、心理学者のレノア・ウォーカーは、
DVでは、3つの段階が繰り返されると指摘している。
そのサイクルが固定化し、パターン化していくと説いている。
「暴力によるサイクル理論」と呼ばれれ、3つの段階が繰り返し、
循環していくと指摘している。
第1段階の『緊張期』は、加害者の心に苛立ちや不安など心理的緊張が
高まっている状態のことを言う。
イライラし、不満を募らせている時期のことを指す。
第2段階の『爆発期』は、心理的緊張がたまり、ついに、殴ったり
蹴ったりなどの、暴力をふるう時期のことを指す。
この後に『 ハネムーン期』と呼ばれる、第3段階がやって来る。
被害者に対し、暴力をふるったことの反省や謝罪を見せる。
そうすることで、また、親密になる時期がやって来る。
加害者は被害者に対して、いつもひどい態度で接しているわけではない。
反省したり、気遣う態度を見せるときもある。
そうした態度のギャップから被害者は、加害者の感情にほだされてしまう。
その結果。何時まで経ってもDVからは逃れられなくなる。
いくら反省しても、この暴力は何度も繰り返される。
反省して謝ってくるので、ついつい許してしまいがちになるが、
実際の効果は何もない。
『俺が悪かった』『もう絶対こんなことはしない』と反省しても、
イライラが募ってくると、相手を傷つけ、ストレスを発散してしまうのが
DVにおける避けられないパターンだ。
受け止める側の被害者も、加害者が真摯に反省する姿を見ると、
『この人の苦しみは、私しか受け止められない』
『いつかはこの人が、変わってくれると信じている』などと、同情や
期待の気持ちが湧きおこる。
こうしたことが、結局、被害を長引かせることになる。
暴力を一切認めず、自分の人権を守ろうという、強い意志を持たない限り、
DV被害を断ち切ることは、難しい。
「貞ちゃん。そんなに心配しないで。あたしなら、大丈夫だから」
心配そうに覗き込む貞園から逃れる様に、美和子が前髪を引き下げる。
しかし、短くそろえた前髪では、傷跡を隠すことはできない。
『この長さでは、傷を隠せるわけありません。往生際が悪すぎです、あたしも』
と逆に、寂しそうな笑顔を美和子が見せる。
「子供が出来たことで、何かが変わるかもしれません。
期待しすぎると、しっぺ返しで、痛い目にあうかもしれません。
でもこの世の中、悪いことばかりが続くとも思いません。
貞ちゃんまで暗い顔をしないで。
病院からの帰り道。強い母親になろうと決めました。
ほら、折角だもの。
話題を変えて、もう少しおしゃべりしましょうよ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話 作家名:落合順平