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からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話

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 康平が貞園のために、黒霧島のお湯割りを準備する。
突き出しとして、茹でたばかりの枝豆が出てくる。
群馬県の北部、昭和村の農家から送されてきたばかりのものだ。

 届いたばかりの枝豆を、枝からひとつづつ丁寧に外す。
つづいて、『さや切り』をする。
両端のヘタ部分を、キッチンばさみを使って切りおとしていく。
こうすることで枝豆に、味がしみ込みやすくなる。
ひとつまみの塩をボールへ投入し、豆に塩をすり込んでいく。
皮に塩がしみ込むことで、さらに一段階、うま味もアップする。 

 お湯は、4%の塩加減にする。3分30秒から、5分の間で茹で上げる。
5分以上ゆでると、アミノ酸が流出してしまう。
食感が柔らかくなりすぎて、風味を損なってしまう。
茹でた枝豆をザルにあけ、うちわで手早く冷ます。

 氷水につけると、せっっかうの塩味が抜けてしまう。
水っぽくなるので、これだけは避けたい。
ちょうど良い塩加減なので、これ以上の塩ふりは必要ないが、
しょっぱいのが好きな人は、好みでさらに塩を振ってもいいだろう。

 枝豆の甘みをひきだす秘訣は、『対比効果』にある。
4%の塩水でゆでたとき、枝豆に含まれていく塩分量は
可食部分(食べられる豆の部分)の100gに対して、わずか1gに過ぎない。
この塩分量が、枝豆が本来持っている甘み(麦芽糖・マルトース)を
引き出してくれる。
わずかな塩分が甘さを引き出すことを、「対比効果」と呼ぶ。
「スイカの塩」や「お汁粉の塩昆布」なども、これと同じ効果が有る。
100対1の比率を超えると、甘みより塩気を強く感じる。
4%の塩水は、枝豆をもっとも美味しく仕上げる黄金の比率といえる。

 「・・・たしかに、美味しい!。これは絶品の枝豆です」

 貞園の目が、みるみる細くなる。
美味しいものを食べているという幸せ感が、満面に満ち溢れてくる。
黒霧島のお湯割りを、一気に3分1ほど喉の奥へ流し込む。
貞園の目は、横線一本に消えてしまいそうだ。
やがて完璧に満面の笑みへと、変っていく。

 「どっちだ、お前。うまいのは枝豆か、それとも焼酎のほうか?」

 「どちらも最高!。でも、夏はやっぱり枝豆です。
 鮮度といい、絶妙の塩加減といい、康平はやっぱりお料理の天才ですね」

 「お世辞はよせ。で結局、誰なんだ。この青い服の女は?」

 「ちょっと小生意気な女。
 最近ちょくちょく、このあたりでよく見かけるようになった変な女。
 今日も来ていたのよ。
 我がもの顔でこの路地へ入ってきたもの。
 つばの広い麦わら帽子を胸に抱えて、シルクのような巾着袋をぶらさげて、
 薄いブルーのワンピースを着た30歳くらいの細身の女。
 あら、・・・・どうしたのさ、その反応は。
 まさか・・・・知り合いじゃないでしょうね。ねぇ、康平くん!」

 (76)へつづく